97 / 163

第5章ー16 忘れ去られた国-10

翌日。 いよいよ今日、緋国へ向けて出発する。 船の出港予定時刻は午前9時。 人の少ない6番埠頭からの出港だ。 6番埠頭に着いた一行は、これから乗り込む定員約1000名、6層から成る大きなフェリーを見上げた。 これほどの規模の客船を貸し切るのだから、流石はカルフィンが誇る世界最高の召喚士:シェルバ・メルケルと言うべきだろう。 今日はいつも通りライナーに抱っこされたリアも、大きな目を更にくりくりにして、初めて見る船を見上げている。 しばらく船を見ていると、タラップからブレッグ氏と船員が2人、一緒に降りて来た。 フレッグは2人をこの船の船長と航海士だと紹介した。 互いに挨拶を終えると、船長から改めて今回の旅の危険性が伝えられる。 この旅では途中から海路にない外海を行くため、魔物から襲われる事や、暗礁に乗り上げてしまう危険がある事を説明され、それでも行くか?と最終確認の様に聞かれた。 もちろんその問いに関しては、全員覚悟の上だと伝える。 また、ムーガ・ハプソンの執事・ブレッグ氏との事前打ち合わせで、魔物が出た際の対応はキリエ達が、暗礁等の探索や海路決定に関しては船長達が行う事で話も付いている事だ。 自信に満ちた答えに、船長達も流石はシェルバ様のお知り合いだと感心し、それではどうぞ、とタラップを示した。 船内に入り中を案内されながら、取り敢えず最初の3日間は通常使われている海路を使うため、大きな危険は無いだろうと言われ、それまでは船旅を満喫してください、との言葉で締めると、船長達は船橋へと戻って行った。 そうして残ったブレッグにリア達が案内されたのは、最上級のスイートルームだった。 室内の豪華さは勿論、広いプライベートテラスには滑り台付のプールまであり、こちらも自由に使って良いと言われ、リアは大好きな水遊びができそうな予感に、目をキラキラさせている。 室内の設備などをひとしきり説明した所で、ブレッグは優雅に礼をとる。 「それでは皆様、私はこれで失礼致します。…旅のご無事をお祈りしております。…どうかお気を付けて。」 そうして。 「出港―っ!!」 「イカリをあげろーっ!!」 威勢の良い声があちこちから聞こえ、船はゆっくりと動き出したのだった。 さて。 プールから視線が離れないリアはと言えば。 ライナーの腕から降りて、エスティと一緒にテラスに飛び出す5秒前、といった感じで落ち着きが無いのだが、ちゃんと保護者に伺いを立てる所がまた可愛らしい。 「……ね、にぃ。…リア、…おみず、あそび、…いい?」 こてん、と首をかしげて聞くリアに、「もちろんいいとも。」 と答えながらも、「その前にお着替えをしよう」、と言うキリエ。 「……おき、がえ……?」 マルシエで水遊びをする時は皆いつも裸でしていたので、リアは不思議そうにしている。 そんなリアにくすり、と笑うと、 「…ここは人間社会だからね。…人間社会のルールに合せないとね。」 そう言いうとキリエは部屋に運び込まれていたトランクケースの1つを開けると、中から白地に赤の水玉模様の小さな布を出してリアに見せた。 「リアおいで。お着替えしようね。」 そして。 キリエに着せ替えられたのは、セパレートタイプの水着で、上はハーフトップで肩紐部分がウサギの耳になっており、その耳を首の後ろで結ぶようになっている。 下は上と同じ白地に赤の水玉のかぼちゃ型パンツで、お尻には丸くて可愛いウサギの尻尾がついていた。 髪も水着にあわせ、二つに分けて高い位置でお団子にしている。 こちらは最近リアのヘアスタイリストと化しているライナーが、僅か数分で見事に仕上げた。 『………ああ、主!…本当によく似合っていますよ。流石は私の主です!』 ペガサスの言葉を合図に、状況について行けずちょっと引いているカルラ以外が、リアを褒め、称え………その後、早く遊びたそうなリアそっちのけで、撮影大会が始まったのは自然な流れだったかも知れない。 しかし。 同じく大好きなリアと早く一緒に遊びたいのに、中々リアを開放してくれない保護者達に、いい加減業を煮やしたエスティがキレた事により、二人はやっとプールに入る事が出来たのだった。 旅は始まったばかり。 忘れ去られた国10 END

ともだちにシェアしよう!