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第5章ー17 忘れ去られた国-11

現在カルフィンの季節は秋で、平均気温20度程度と過ごしやすい季節だが、本来この船は南の航路で30度を超える地域を中心に航海しており、船内温度を快適に保つ為の大きな魔装具を装備してある。 魔装具は至る所に使われており、中でも最も重要なのは、船のエンジンと魔よけの結界を作るもので、これらが故障して使えなくなると、航行が困難になってしまう為、船には魔装具のエンジニア達も多数配備されている。 快適に保たれているのは、当然リア達がいるスイートルームにも言える事で、ルーム内に複数あるベットルームでは個別に温度が設定できる仕組みになっているし、リビングのソファや調度品も貴族たちが好みそうな最上級の物で揃えられている。 ちなみに、プールを含むテラス部分は25度位に設定されている。 さてそのプールだが。 水温は約35℃、直径約20mの円形で、部屋から出て右側には滑り台が設置されており、3m位の高さからくるりと螺旋を描いて滑り、最後はプールにざぶん、と入る形だ。 現在リアとエスティは、この滑り台に夢中だ。 特に滑り台の最後がプールに入っている為、バシャーッと水がかかるのが面白いらしく、最初に滑った時はびっくりして固まってしまい、保護者達を慌てさせたリアも、今ではエスティを抱っこして一緒に滑ったり、逆さまになって頭から滑ってみたりと、自由に遊んでいる。 すると、自らも水着に着替え、どこからかイルカ型の大きな浮き輪を見つけて来たライナーとフィランドが、 「ほら、リア。」 と、イルカをプールに浮かべてやった。 「………きゃあ…////」 それを見たリアは小さく歓声をあげ、嬉しそうににこぉ、と愛らしい笑顔を見せる。 プールは滑り台のある右側が、子供用として簡単な柵で仕切られており、水深も40cm程なのだが、柵の向こう…つまりフィランドがイルカを浮かべた辺りは結構な深さがあり、最深部では2.5mに達している。 ただ、見た目では判断が着きにくく、リアも身軽に柵をまたいでイルカを目指そうとした……のだが。 「……ッ、待て、リアッ!!」 ライナーの制止も間に合わず、リアがすぐに着くと思った足は中々届かない…… 「「…リアッ!!!」」 慌ててライナーとフィランドが飛び込み、リアを水から救う。 「……けほっ、けほっ…」 水を飲んでむせてしまったリアだが、驚きの方が大きく、二人に抱えられた状態できょとんとしている。 何が起こったのかすら、わかっていないのかも知れない。 何故なら、普段水遊びをする場所には必ず水の精霊達が棲んでおり、リアを溺れさせるような事は絶対にないため、時に水遊びは危険なのだという概念が無いのだ。 この人工的に作られたプールにはそうした精霊がいないため、危うくリアは溺れかけたのであるが……。 取り敢えずライナーがリアを抱えて水から上がるとキリエがすぐにやって来た。 カルラは様子を見ているが、思わず出してしまったのだろう、その手には召喚魔具が出現している。 ライナーがプールサイドのデッキチェアにリアをそっと座らせると、キリエはチェアの前に跪いてリアの小さな手を取り、頬を優しく撫でる。 「……リア……お前はほんとに……私を殺す気かい?」 「………にぃ……?……リア、ぱしゃん、……なった?」 本当に分かっていない様子に、キリエは困った子だ、と言いながら、優しく注意をする。 「いいかい、リア。水の精霊達がいない場所で水遊びをする時は危ないからもっと気をつけないといけない。…そうだな、これからはライナーかフィランド君と一緒にしなさい。いいね?」 キリエの言葉を聞くうちに、ぽろぽろ涙を流して俯いてしまったリアをキリエは抱き上げると、背中を優しく擦ってやる。 「……にぃ、おこ、った……?……リア、わるい、…こ?…ごめ……なさ、い……。」 ぎゅう、と抱き付くリアの頬に優しいキスをしながら、キリエは続ける。 「リアが悪い子なはずないだろう?リアはとても素直で良い子だよ。……愛しているよ、私の可愛いリア。……人工的な水の中に長く居たから疲れただろう?…イルカで遊ぶのは、少しお昼寝をしてからにしようね。…エスティもおいで。リアと一緒に少しお昼寝しなさい。」 言いながら、魔力でリアの体についている水分を飛ばしたキリエは、室内に入り、リビングにある大きなソファにリアを横たえると、その隣にエスティが並んでころんと丸くなった。 ライナーが寝室から持ってきたふかふかで柔らかな毛布をかけてやり、キリエ、ライナー、フィランドが次々とお休みのキスをして、リアを寝かし付けた。 そうして。 お昼寝から覚めたリアには可愛い笑顔が戻り、言いつけ通り今度はライナーとフィランドも一緒にプールに入ってくれて、リアが満足するまで一緒に遊んでくれたのだった。 忘れ去られた国11 END

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