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第5章ー21 忘れ去られた国-15

◇Side:ライナー 魔物はクラーケン4体とサハギン5~6体だと人間達が言っていたが、今倒したクラーケン1体を除いても、まだ目視できる海面だけでクラーケンが3体。 人間達の言葉を信じるなら、クラーケンはその見えている3体だけになるが、邪気の感じから船底付近にも数体いるのを確信した俺は、迷うことなく海に飛び込む。 流石に外海を航行する船だけあって、魔物に備えた結界装置等は結構な規模の物が設置されており、今もきちんと発動し、取り敢えずその機能を発揮している。 しかし相手がクラーケンなら話は別だ。 サハギン程度の魔物になら守備結界を破られる様な事は無いだろうが、さっき人間達がクラーケンに会ったら逃げるしかない、と言っていたように、その大きさも強さも桁違いで、たかが人間が作った結界装置では、いずれ限界が来る。 ……まあ、その前に全部倒してやるがな。 海に入った俺を見つけて一気に向かって来たサハギン達に、俺はトライデントを水平に構えると、先端から強力な水流を発生させ、その体を次々と引きちぎって行った。 引きちぎられた手足の一部は、もしかしたら水流がおこした水柱によって海面や甲板に落ちたかもしれないが、今日もリアにはペガサスによって“視界制限”が施されているので、気にしない。 そうして、僅か数分でサハギン達の“駆除”を終えたライナーは、そのまま船底付近へと潜って行く。 海水は邪気で濁り視界はほぼゼロだが、イプピアーラの眷属であるライナーには、クラーケンが発する邪気と音波のような物を感じる事が出来るため、全く迷うことなく獲物に近付いてゆける。 そして。 結界に沿って、張りつくようにいるクラーケン2体を発見した。 こちらに気付いた1体がすかさず電撃攻撃を仕掛けて来るが、ライナーはそれを己の周りに張った結界で防ぐ。 相手は海中に満ちたこの邪気から力を得ているらしく、先程海面で倒したクラーケンよりも攻撃力も速さもかなり上だ。 流石にイプピアーラの眷属たるライナーが攻撃を受けるような事は無いが、結界の事もあり、時間を掛けたくないライナーである。 「…チッ。……仕方ない。」 そう言うと、ライナーは擬態を解除した。 対峙していた1体を瞬く間に倒し、そこからはライナーの独壇場であったのだが、1つだけ誤算が生じた。 2体目に止めを刺した際にクラーケンが放った最後の一撃、もちろんライナーは避けたが、その電撃派が結界を超えて船底に当たってしまったのである。  !! 「……ゲッ!? 何で結界が機能してないんだよっ!」 船底の中央付近には直径3m程の大きな穴があき、浸水し始めている。 しかしその後のライナーの対応は早かった。 応急措置として、船底付近の海水を氷らせて穴を塞ぎ、それ以上の浸水を防いだのである。 『……うん。いい戦士に育ったね。攻撃力も申し分無いし、不測の事態に対する判断力も素晴らしい。』 『トライデントも上手く使いこなしている様ですね。』 ブリッジにいたキリエとペガサスが、こっそりこんな会話(心話)をしていたのは、ライナーにはもちろんリアにも秘密である。 (二人だけにしか聞こえない様にしていた。) ついでに、あの一瞬だけ結界を解いたのがキリエだという事も、ペガサスだけが知っている。 ◇Side:Liner END 忘れ去られた国15

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