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第5章ー24 忘れ去られた国-18

今度の相手はクラーケン1体とサハギン8体の群れだった。 サハギンは決して強い魔物では無く、この襲撃の場合、結界装置の限界を超える恐れがあるクラーケンだけを叩けば良いのだが、これはフィランドが実践経験を積むための訓練でもあるため、殲滅がクリア条件となる。 殲滅するとなると、クラーケンから倒してしまえば、サハギンは逃げてしまう可能性があるため、クラーケンより先にサハギンを倒さなくてはならない。 また、甲板へ上がって来れないサハギン達を倒すには海中で戦うしかなく、炎の属性が強いフィランドからすれば、水属性の魔物と海中で戦うというのは、かなり不利だ。 故に今回求められるのは、一撃必殺はもちろん、海中でクラーケンからの攻撃を回避しながら、如何に効率良く敵の数を減らしていくか、ということだ。 更には。 「20分経っても殲滅出来ないときは、リアが心配しちゃうから、ライナーを出すからね。」 と、キリエがしっかり時間制限も課している。 ライナーもかなりなスパルタだが、キリエはその上を行く。 だがそれは決して苛めなどでは無く、単純に、聖獣や精霊の力がどれ程の物なのか、という事を知っているからだ。 その力を使いこなす事さえ出来れば、キリエの課した条件は簡単クリアできるはずなのである。 フィランドは一つ大きく息を吐き、左手を前に差出してフランベルジュを召喚すると、そのまま海へと飛び込んだ。 一方、リアはライナーに抱っこされたまま、フィランドが海に飛び込むのを見ていた。 「……ね、ライナー…。フィラ、ンド、…だいじょ、ぉぶ……?」 ライナーが着ているチュニックの胸の辺りをギュッと握り、リアが不安そうに口を開く。 それに対しライナーは、落ち着かせるようにリアの背中を撫でてやる。 「大丈夫だ。あいつもそこそこアレ(聖剣)を使いこなせるようになっている。この程度の相手なら20分もあれば戻って来るさ。」 そして。 海中のフィランドは。 海中にも関わらず、自身の体が水の抵抗を殆ど感じること無く、まるで陸にいるのと変わらない動きが出来ている事に驚いていた。 …それに体中から湧き上がって来るようなこの力……。 ……さっきリアからもらったユグ、なのか……? クラーケンの強力な電撃攻撃を躱しつつ、10分程で全てのサハギンを倒したフィランドは、いよいよクラーケンと対峙した。 まずは一番厄介な触腕を両方切り落とし、一気に炎で灰にする. そうして。 これまでで一番最高にフランベルジュとシンクロしていると感じていたフィランドは、 ……いける!! そう判断した瞬間、一気に魔力を高めフランベルジュから解放する。 放たれた業火はクラーケンを飲み込み焼き尽くして尚、巨大な火柱となって海中を立ち昇って行く。 「うん。……まあ、リアからの贈り物(ユグ)があった事を差し引いても、課題クリアでいいかな。」 海面から立ち昇る火柱を眺めながら呟いたキリエに、 「……やりすぎだろう…。これでは力のコントロールが出来ているとは言えん。」 「まあ、それはおいおい。」 フィランドの事はちゃんと認めてはいるはずなのに素直じゃないライナーに、キリエはクスリと笑いながら、取り敢えずは及第点を出したのだった。 ちなみに。 立ち上がる火柱にリアとエスティは大喜びで、今度はフィランドと “花火ごっこ” をやろうと盛り上がっている。 もちろん “花火役” はフィランドである。 それを横で聞いていたカルラは、近い将来従兄に降りかかるだろう、冗談のような回避不可の災難を思い、遠い目をするのだった。 忘れ去られた国18 END

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