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第5章ー27 緋国へ-1

プライベートテラスのデッキに立ち、精霊のペンダントを掲げていたカルラだが、暫くののち、様子を見守っていた一同を振り返る。 「精霊の声が聞こえる様になりました。……緋国のおおよその位置も分かりました。ここから右舷前方20度の方向へ約100km位の様です。取り敢えず一度、船橋へ行きましょう。」 そうして約2時間の航海の後、ペンダントに導かれながら船は目的の場所へと近付いて行ったのだが。 見張り台に立った船員から船橋へと緊迫した声が響いた。 「緊急事態発生!右舷前方10海里(約18km)付近に巨大な滝を確認!緊急回避を要す!」 その知らせは船橋にいた者達全員に聞こえており、当然そこにいたリア達にもしっかり聞こえている。 「!!何だと!? …面舵一杯!反転回避!」 キリエは緊迫した雰囲気の船橋でライナーに抱かれたまま、一人きょとん、としているリアを優しく見つめた。 「………う?…にぃ、…なぁに?」 「リア、私とちょっとお空のお散歩へ行くか?」 すると、ぱぁぁぁ、っと、目を輝かせたリアは、 「いくぅ!…リア、にぃ、といくー!」 満面の笑みで元気にお返事をしたのだった。 そして今。 リアを大切に抱いたキリエは、眼下に広がる驚愕の光景に珍しく言葉を失っていた。 リアもキリエの首にぎゅうぅぅ、と抱き付いた状態で、大きな目をくりくりと見開いてびっくり顔をしている。 それもそのはず。 今リア達の下には、“世界の切れ目” あるいは “この世の果て” と言われても、信じてしまいそうな光景が広がっているのだ。 『これはまた稀有な光景ですね。  魔術の名残から、これは “まやかし” だとわかっているのに、実際に目に入って来る光景はこんなにもリアルなのですから。』 「……上位聖獣である貴方や、この類のまやかしは無効なはずのリアの目にすら、同じ光景が見えているのですから、これを施した者は相当な力の持ち主なのでしょうね。」 キリエは眼下に広がる、左右見渡す限り続ついている巨大な滝を改めて見る。 仮に、“コレ” を施した者がまだ緋国にいるのだとしたら、相手は上位聖獣であるペガサスの目すら迷わせるほどの幻影魔術の使い手、という事になる。  ………。 「取り敢えず一旦戻りましょう。  ……なんにせよ、ここからは気を引き締めて行かねばなりませんね。」 厳しい顔をしてシェラと話しているキリエに、常の優しくて甘い兄とは違うものを感じ、リアは不安を紛らわせるようにキリエの首筋に顔を埋め、ぎゅう、と強く抱き付くのだった。 そして再び船橋。 キリエは全員に今見て来た物をそのまま伝えると、カルラを見る。 「カルラ君、ペンダントはこのまま進めと言っているんだね?」 「…彼の精霊も緋国の “外” にどんな仕掛けがしてあるのかは知らないようでした。でも、緋国の周辺にそのような滝などは無い、それは多分まやかしだ、かまわずそのまま進め、と繰り返すだけです。」 「……そう。ならここは船長に1つ選択をしてもらう事にしよう。」 成り行きを見守っていた船長は急に話を振られて焦っていたが、次にキリエが提案した2択に顔を強張らせた。 「①このまま我々の言う通り進む。  ②ここで我々を降ろし、帰路に着く。  …もちろん魔物対策として、私がクラーケン程度では手も出せない位の強力な結界を張りましょう。  しかし途中、あの“霧”の中は自分達で進んでいただくしかありません。  私達はどちらでも構いません。  …そうですね、1時間差し上げます。皆さんで良く考えて結論を教えてください。」 「……ッ。……分かりました。」 にっこりとそれは美しい笑顔で選択を迫られた船長は、 青白い顔をしながらも、やはりそこはベテランの意地で冷静に返事を返したのだった。 1時間後。 結局、最後までリア達と共に行く事を選んだ船長以下乗組員達だが、それを伝えに来た船長に、 「それにしても、クラーケンにも有効な程の結界が張れるのなら、最初からやっておいてほしかったですよ」 と苦笑いで言われてしまったのは、仕方ない事だ。 しかしそれに対し、 「すみませんね。経験不測の戦士が、実践訓練が出来る絶好の機会だったので。」 と笑顔で返したキリエは、傍で聞いていたライナーやフィランドに改めて、絶対に逆らってはいけない相手として、深く刻み込まれたのだった。 緋国へ 1 END

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