111 / 163
第5章ー30 9尾の狐が守る国-1
港でキリエの行動を見ていた一人、緋の宮慧羅の父でありこの緋国の長老でもある、当代・緋の宮羅紋(ヒノミヤ・ラモン)は、流石に少し驚いた顔をしていたが、取り乱すような事も無く静かな声で、図らずしも神子様を怖がらせてしまった事を詫びた。
そしてまずは落ち着ける場所へという事で、これまた見た事の無い “人力車” という、馬ではなく人が引く車に乗って移動する事になった。
2人乗りのそれに、リアはライナーと、フィランドとカルラ、キリエは長老と、船長と副航海士長の4台に分かれて乗り込み、人力車はキリエと長老が乗った車を先頭に動き出す。
それ以外にも幾つかの車がリア達の後ろを付いて来ており、どうやら同じ場所へ向かうようだ。
そうして20分程かけてリア達が案内されたのは、木造で全体が朱に彩られ、地面から1m程高い場所に床面のある不思議な建物だった。
入口に繋がる広い階段の頂上では、これまた赤と白の不思議な衣装に身を包んだ10名ほどの者達がその場で跪き、人力車を降りたリア達を最敬礼のまま待っている。
港からここまで、ライナーに抱き付いたまま一度も顔を上げていないリアだったが、ふと優しい気配を感じ、ライナーの肩口にぴたりと付けていた頭をそっとあげて見る。
まず目に入ったのはライナーの気遣うような優しい瞳。
すぐ隣にはフィランドが歩いており、顔を上げたリアを見て、頭を優しく撫でてくれた。
「…少し落ち着いたか?」
頭を撫でられ、子猫の様に気持ち良さそうに目を細めるリアを見て、ライナーが優しく聞く。
「……ん。……あの、ね、…あっち、……やさし…い……かんじ、する、の。……せいれい、さん……かな………?」
建物の方を指さし、考える様に大きな目でじっと見つめるリア。
リアの言葉にライナーとフィランドもそちらを見たが、特に嫌な気配は感じないので大丈夫だろう。
「…そうか。…優しい精霊がいるといいな、リア。」
「……ん///」
嬉しそうに微笑んだリアを優しく見つめながらも、ここへ来るまでの間、人では無い…でも外の世界の聖獣や精霊達とも異なる不思議な気配があちこちに漂っていたのを感じていた2人は、警戒を深めるのだった。
そして。
ソファもテーブルも無い、風変わりな応接間のような場所に通されたリア達は、薄いクッションのような物の上に胡坐をかいて座り、長老たちと向き合っていた。
静かな環境と、どこかから感じる優しい気配に少し落ち着いたリアは、今はエスティを抱いて、ライナーの膝に抱っこされている。
改めて部屋を見渡すと、草を編んだような緑色の床に、格子に薄い紙を貼ったような壁、朱色に塗られた柱には細かな細工が施されているのが分かる。
「……では改めまして。わたくしは当代・緋の宮羅紋としてこの国のまとめ役をさせていただいております。神子様、守護者様、本当によくご来臨くださいました。そうして導き手、よくぞ役目を果たしてくれた。」
羅紋が万感の思いを伝える様に涙ぐみ、丁寧に頭を下げるのに、その後ろに控えた者達も一緒に頭を下げる。
そうして顔をあげた長老はリアを優しく見つめた。
「………。」
皆が同じ行動をとる姿をきょとん、と見ていたリアは、羅紋の視線に気付くとエスティをギュッと抱き締め、また俯いてしまった。
それを見ていたライナーが、リアを隠すように再度ストールをかけてやり、
「……あまり見るな。」
冷たく一言を放った。
しかし羅紋はライナーの無礼とも取れる態度に気分を害した風も無く、
「……これは失礼致しました。神子様があまりに愛らしくあられましたので。……あなた様は守護者の方ですな。…すでに3人も守護者様がおられるとは。安心いたしました。」
キリエとフィランドを順に見ながら言う羅紋に、丁度目が合ったフィランドが口を開く。
「……さっきから貴方が言う、“守護者” というのは何だ?」
フィランドの質問に羅紋が答えようとしたその時。
すっ、と左の扉が開いた。
「……その質問には俺が答えよう。」
現れたのは、真っ白く美しい毛並に琥珀色の瞳、そして沢山の “尾” を持った狐…のような不思議な生き物だった。
9尾の狐が守る国1 END
ともだちにシェアしよう!