112 / 163
第5章ー31 9尾の狐が守る国-2
「……九重様。」
白く不思議な生き物を見た緋国の者達は、先程とリア達にしたと同じように頭を垂れ、最敬礼をした。
ちょっと驚いた顔で九重(ココノエ)と呼ばれた白い狐を見ていたリアは、光に擬態しているペガサスを無言で見つめる。
主の視線の意味を正しく理解しているペガサスは、擬態を解き、はじめて緋国の者達の前に姿を現す。
!!
突然現れた、緋国では見た事もない生き物に、長老含め後ろに控えた者達は驚愕の表情で固まってしまった。
ついでに。情報としてペガサスを連れている事は知っていたものの、実際に見たのは初めてだった船長達も固まっている。
そんな氷ついたような雰囲気を物ともせず、ペガサスは愛しい主の無言の問いかけに心話で答える。
『あれは上位精霊のフーシエンです。生まれた時には2尾しか持っていませんが、年齢と共にその “尾” の数が最高で9尾まで増え、魔力も強くなります。』
「……つまり、あれだけの数の尾を持つという事は、相当な長生きという事だな?」
確認するようにペガサスに聞いたライナーに答えたのは、その精霊フーシエンだった。
「…その通りだ、守護者。……それにしても精霊フーシエン、……懐かしい呼び名だ。ここでは皆、俺を “九重” と呼ぶからな。」
人間たちにも聞こえる“声”を発して答えたフーシエンに驚いたのは緋国以外の人間たちだ。
同じように驚きながらも、リア達と行動を共にするうち、耐性が出てきたカルラが口を開く。
「……ですが貴方は8尾。……最後の1尾は “これ” ですか?」
「…良く分かったな。そう、それは俺が生まれた時から持っていた2尾の1つ、風の属性を持った尾だ。700年位前だったか…、
当時の巫女が “いずれこの世に希望をもたらす神子が生まれる。その神子をこの緋国へ導く者の為、力を貸してほしい” と相談を受けて俺が与えた物だ。」
「700年も前に……。」
「そうだ。その時からお前の存在は予見されていた。そして巫女が予見した “希望の神子” とは、ユーグの子、そなたの事だ。そして “守護者” とは言葉通りユーグの子の守り手、…それも巫女が予見していた。…曰く、“希望の神子、導き手により守護者と共に外の世界より来る” と。」
…………。
「……正直なところ、その巫女の予見通りになるのは、手の内で踊らされているようで気持ちの良い事ではありませんね。…ましてそれがファルシオンの血に繋がる者の言葉であるなら尚更。」
緋国の者達にとっては神にも等しい存在のファルシオンに対し、否定的な言葉を発するキリエに長老たちは驚き、何かを言おうとしたが、その前に九重が口を開く。
「…まあ、お前達からしたらそうだろうな。…はっきり言って俺もファルシオンに巻き込まれて、この地に封印された間抜けな口だ。
…正直、そのファルシオンの一族に手を貸すのは全く乗り気では無かったが、…予見を聞いた時、その神子がユーグの子だと見当を付けた俺は、幻獣界に帰れるかもしれないという希望に掛けて力を貸した。
……だがそれから数百年が流れる内、緋国の巫女達にほだされ、気付けばこの国の守護精霊のようになってしまっていたが。」
若干の苦笑いを交えて九重が言うのに、
「……ッ…!こっ、九重様まで何という事をっ!!ファルシオン様はっ……」
耐え切れず思わず大きく声を上げた長老に、リアは怯え、ライナーを振り返り、エスティを間に挟んで守る様にギュッと抱き付く。
そんなリアをライナーは優しく包んでやると共に、長老にキツイ眼差しを送る。
それはリアを溺愛しているキリエや、フィランドにも言える事で、隠しもしない殺気を漂わせている。
「……控えろ、当代。……お前達がファルシオンの事をどう思うかは勝手だ。逆に、俺達がどう思うかも勝手だろう?…個人の主観に口出しをするな。」
「そんなっ、ですがっ……!」
「……父上様、お控えくださいませ。神子様が怯えていらっしゃいますわ。」
尚も言いつのろうとする当代を、後に控えた者の一人で煌びやかな衣装を身に付けた女性が窘めると、その女性は、すす、と前に出て手を着くと丁寧なお辞儀をした。
「…当代が失礼致しました。わたくしはこの国の巫女で香月と申します。…この国ではファルシオン様の事に関して、彼の偉業についてしか語られません。…何故なら、彼がその偉業を成す為に犠牲にしたものについて、当代を含め国民には伏せられ、巫女であるわたくし以外には知らされていないのです。」
「……なっ!?香月、お前まで何をっ……!!」
娘でもある巫女の言葉に、当代羅紋が信じられない物を見るような顔で目を見開いている。
「……これからわたくしがお見せするのは、代々の巫女だけに伝えられてきたファルシオン秘伝ですわ。神子様がここ緋国へご来臨された時、秘伝は解禁となり、必ず神子様にお伝えするようにと伝えられて来ました。」
そう言うと香月は、共に控えていた巫女付の侍女らしき者から、大きな水晶玉を受け取った。
それをライナーに抱かれているリアの前に持って行き、怯えさせない様、そっと差し出した。
「……どうぞ神子様、こちらにお触れくださいませ。神子様のお力を感知して、ここに納められた記録が発動すると伝え聞いております。」
言われたリアは、保護者達を順番に見つめ、全員が頷いたのを確認すると、そっと小さな手を差し出した。
9尾の狐が守る国2 END
ともだちにシェアしよう!