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第5章ー35 9尾の狐が守る国-6
長老達一行が退出して間もなく、香月はにこりと微笑み、手をパンパン、と2度ほど打った。
すると待ち構えていたように、同じような姿の女性が数名、入室して来た。
「さて、遅ればせながら、お茶と菓子等をご用意させていただきました故、どうぞお寛ぎ下さいませ。こちらは緋国の菓子職人渾身の練り切り菓子ですわ。」
女性たちはそれぞれの前に小さな足つきのトレーのような物が置くと、その上に香りの良い薄い緑色をしたお茶と、美しい草花等を模した優雅な菓子を配膳してゆく。
初めて見る彩り鮮やかで美しい菓子に、リアはライナーの膝の上でエスティと一緒に目を輝かせている。
「神子様の前にご用意したのは、手前から雛菊と手毬を模した物ですわ。その後ろにございますのは、松と椿と柿の実ですわね。」
先程のリアの言葉を覚えていたのだろう香月は、愛らしい神子の姿に目を細めながら、なるべくゆっくり丁寧に説明してゆく。
「……ところで、その…神子様のお膝にいらっしゃる桃色のそちらの猫様と、あちらで九重様とお話?なさっているように見える…あの翼のあるお馬様は精霊様なのでしょうか?よろしければ精霊様の分もご用意させていただきますが…」
その言葉にきょとん、としたリアは、1度膝に抱いたエスティを見た後、今度は上を向いてライナーを見つめる。
リアの視線に何を言いたいのかすぐに理解したライナーは、香月に向かって口を開いた。
「…菓子はいいから、お茶をもう2つ頼む。」
全ての配膳が終わり、香月のどうぞ、の合図を聞いたリアは、エスティと興味津々で目前に綺麗に並べられた “練り切り” を見ている。
「リア、まずはどれにするんだ?」
リアを膝に乗せている為、手が伸ばしにくいライナーに変わり、隣に座ったフィランドがとりわけ様の小皿を持って、リアに聞いてやる。
「……ん、と。……ん、……これ、する。」
小さな頭をこてんと右に向けたり左に向けたりと可愛く悩んだ結果、ようやく決まってにこぉ、と微笑んだリアに微笑み返しながら、フィランドはリアが選んだ、“手毬” の練り切りを小皿に取り分けてやった。
その後はいつもの “はんぶんこ” だ。
リアは木で作られた短い二又のフォークのような物で、自身の小さな1口よりも更に一回り小さく切り分けた練り切りを、まずはエスティの口に運んだ。
「…おい、…し…?」
「にゃ!甘くて色んな味がするにゃ!次はリアにゃ!」
そう言うと今度はエスティがリアからフォーク(のような物)を受け取ると、自分の1口より少し大き目に切って、リアの口元に持って行く。
それをぱくん、とくわえたリアは、広がった優しい甘さと花の香りに、頬を綻ばせている。
そんな心癒される情景に、キリエ達保護者一同はもちろん、香月を始めその侍女達も微笑ましげに、暫しの間、2人のままごとのような可愛らしいやり取りを見つめていた。
「それにしても、長老達は逃げる様に出ていったな。…まあ、信じていた世界が崩れたのだから仕方ないと言えば、そうだが。」
薄い笑みを作ったライナーが冷やかに言うのに、
「…ふふ。口封じ、何ていう発想が出てこないといいけどね。」
優雅に、でもとても物騒な事を話す守護者達に、侍女達は慌てて九重や香月を見る。
「まあ腹立たしい気持ちは分かるが、その辺にしといてくれないか?侍女たちが怯えている。」
九重の言葉に、優雅にでも凍えるような笑顔で微笑んでいたキリエが、ふと表情を消す。
「…それで?上手に長老たちを追い出して、九重殿方は何を話したいのですか?」
9尾の狐が守る国6 END
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