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第5章ー36 9尾の狐が守る国-7
九重と香月をじっと見据えてのキリエの言葉に、香月はすっと姿勢を正し静かに口を開いた。
「……今暫しお待ちを。間もなく次代・羅紋がこちらへ参ります故。」
香月の言葉に薄く微笑む事で答えたキリエを確認し、今度はカルラが九重を見ながら口を開く。
「…ではそれまでの間、私からよろしいですか?」
「おう、いいぞ。お前にしてみれば、勝手に見た事もない緋国への導き手に任命されたんだ。…聞きたい事も山ほどあるだろう。」
快く九重が頷くのに、しかしカルラは。
「確かに。…正直、聞きたい事はあります。しかし人には分相応な立ち位置があります。…私は召喚の資質があるだけの者。残念ですが、私の立ち位置は“そちら側”ではありません。」
「……頭の良い奴は嫌いじゃないぞ。…それではお前が話したい事とは何なのだ?」
カルラの言葉に半ば驚きながらも、九重は8つの尾を左右にパサパサと揺らし興味深気に次の言葉を待っている。
「…話と言う程の事ではありません。…ただ…“これ”を貴方にお返ししようと思っただけです。」
そう言うとカルラはおもむろに立ち上がり、持っていたペンダントを九重の首にかけた。
すると
!!!
一瞬強く光を放った九重の体は、白く長い髪に琥珀色の瞳、真っ白で毛並の良い尾を9つ持ち、擬態を解いたキリエと並ぶ程長身のヒト型へと変化していたのだった。
初めて見たヒト型の九重に香月や侍女達が驚きで固まる中、九重もまた、別の意味で驚いていた。
…“人” が一度手にした力をこれ程簡単に手放すとは…。
…いや、……だからこそ、“導き手”となれたのか…。
暫しの沈黙ののち、改めて九重はやや驚いた表情で己を見ているカルラを見やった。
「我が力、確かに受け取った。…本当にご苦労だった、カルラ・ヤギュー。お前が望まぬのなら、“こちら側”の事は話すまい。
…だがせめて今宵開かれる予定の宴では、お前も主役の一人として楽しんでくれ。お前の従兄たちも喜ぶだろう。」
「……はい。」
いきなりヒト型になった九重に最初こそ驚いたカルラだが、こういった驚きにはクランツ兄弟のお蔭で耐性が出来つつあった為、すぐに我を取り戻し、返事を返した。
そうして取り敢えずの役目を終えたカルラは、肩の力を抜いて安堵した風だが、香月をはじめ九重のヒト型を始めて見た侍女達はまだ慌てふためいている。
「……あっ、あの…、九重様…?」
カルラとの会話が終わったのを確認して、香月は困惑した様子で九重に声をかけた。
「…ああ。お前達もこの姿を見るのは初めてだったな。俺達の種族は尾が9つ揃うとヒト型になれる。」
「九重様…」
「…どうだ?そこの守護者には多少劣るかもしれんが、俺もなかなかに美男だろう?」
「……九重様……」
「……そんなに驚いたのか?先代から俺の事は聞いていたのだろう?」
瞳をうるうるとさせ今にも泣きだしてしまいそうな香月や侍女達に囲まれ、流石に困った体で尾をパタパタと振りながら頭を描いている九重。
そんな中、部屋の入り口がすっ、と開き、次代・羅紋が姿を現した。
「…兄上様!」
「…香月?…どうしたのだ?その取り乱しようは…。」
しかし次代・羅紋は香月の前にいる白い青年に気付くと、僅かに目を見開いた。
「……あなたは…!…まさか…九重様なのですか?」
9尾の狐が守る国7 END
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