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第5章ー37 9尾の狐が守る国-8
丁度良いタイミングで現れた自身の兄でもある次代・羅紋に、香月はやや取り乱しながらも、兄が退出してからの出来事を何とか伝えていく。
一方でリア達は。
キリエとライナー、そしてフィランドは心話でペガサスから精霊フーシエンについて、その能力や詳しい生態などを享受してもらっていた。
カルラはお茶で一息入れた後はそのまま静かに皆の様子を見ている。
そしてリアはエスティと2人、左右にファサファサと忙しなく揺れ動く九重の “しっぽ” をその大きな目で、じぃぃーっ、と見つめていた。
特にエスティは、自身の尻尾もぱたぱたと動き、リアの膝の上でやや前傾姿勢になり、飛びかかる直前のような態勢である。
そんな二人の様子を何となく眺めていたカルラが口を開いた。
「…リア・クランツ、そんなに気になるのなら、お願いしてみてはどうだ?…お前の望みなら叶えてくれると思うが?」
その言葉に反応したのは守護者達の方だ。
「リア?何か気になる事があるのか?」
リアを膝に抱いたライナーが、リアの紫の瞳を覗き込むようにして聞く。
香月や次代・羅紋達も会話を止め、特に香月は神子様の望みとあれば何としても叶えねば、とリアに注目している。
「……///……ん、と。
……ふーし、えん…の、…しっぽ……かわい、い……ね…///」
皆から注目されてちょっと恥ずかしかったのか、リアは胸に抱いたエスティの頭に自分のおでこを付けて顔を隠すようにしながら、小さく呟いた後、そっと顔を上げて窺うようにライナーを見上げた。
…その時の神子様のお可愛らしさと言ったらっ!!
とは、リアのあまりの愛らしさに一気に血が頭に上ってしまい、不覚にも気絶してしまった香月の侍女2名が同僚に後日熱く語った言葉である。
そして。
リアに可愛いと言われてしまった精霊・フーシエンこと、九重は。
何故か狐の(様な)姿に戻り、前足で顔を覆った状態で9つの尾を先程までの倍以上の速さでぱさぱさと揺らしながら、その場で小さく蹲っていた。
「………九重様…………。」
何となく九重の心情を理解した香月だが、このような状態の九重は正直、見たく無かったというのが本音である。
隣では同じように感じているだろう次代・羅紋が、複雑そうな顔をしたまま無言を貫いている。
そしてリア以外のマルシエ組は。
今2人が感じているその思いは、愛らしいリアを前に時折崩壊するペガサスに自分達が感じるソレと同じなのだろうと感じ、憐れみを込めた目を向けていた。
しかしかの上位聖獣&精霊達は。
『ふふふ。早速我が主の愛らしさにやられましたね、フーシエン。……どうです?我が主は世界一愛らしいでしょう?
……ですがコレだけは言っておきます。
我が主は単純に貴方の沢山ある尾 “だけ” に興味を持ったのです。
私が “いつも” 言われる様に、“シェラ、大好き” とか言われた訳ではありませんからね。
…くれぐれも、自分が特別などとは思わないように。』
『……自慢か?
でも名指しで可愛いと言われたんだぞ?そうそう言われる言葉じゃないだろう?
それに!!
俺のこの極上の尻尾に触れば、きっと “大好き” とか言ってくれるはずだ!
……ああぁっ!……あの愛らしい声で、フーシエン大好き…なんて言われたら…///』
レベルの低い言い合いをしていた。
今は心話を使っている為、緋国の者達に2人の声は聞こえないものの、その表情からなんとなく内容を察した緋国組も、会話がばっちり聞こえているマルシエ組も、しばらく続きそうなその状況に、そろって溜息を吐くのだった。
9尾の狐が守る国8 END
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