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第5章ー40 9尾の狐が守る国-11
ファルシオン神殿と並び、ここ緋国の中で最も神聖な場所とされる九重殿。
その一角にある貴賓室は現在、普段はしとやかな香月の侍女達による感嘆と歓声に包まれ、とても盛り上がっていた。
何故なら。
宵の宴の前に、せっかくですからぜひ緋国のお衣装を!
……という訳で、30分程で着替え終えたキリエ・ライナー・フィランドの三人が、それぞれ趣の異なる民族衣装をそれは見事に着こなしているからである。
ちなみに、キリエとライナーは人間の標準を超える背丈と翼や鱗等のみを擬態した状態で、それぞれの特徴とも言える長い金の髪と瞳、青くなびく髪と瞳はまさしく人外の美しさだ。
リアは別室で気合たっぷりの香月と、数名の侍女たちに着せ替え人形にされている。
「キリエ様…///…まるで絵巻物から飛び出ていらっしゃった様ですわ……!
……あぁ、なんてお美しい…////」
「気だるげに着こなされた真紅のお衣装と、不思議な青い髪……。…ああ、ライナー様のあやし気な色に倒れてしまいそうですわ…///」
「フィランド様の硬派な若武者様、といった雰囲気もたまりませんわ…!左右でお目の色が違われているのも神秘的///」
「「………。」」
煩い侍女達にライナーは不機嫌な顔を隠しもせず、フィランドは辟易としながら終始俯き加減、キリエはそんな二人の様子を面白そうに見ている。
もちろんライナーやフィランドはこのような着せ替え人形の様な事には抵抗した。
可愛いリアが着飾るのは大賛成だが、自分達まで妙な装いをさせられるのは御免である。
そんな訳で当初はリアだけを着替えさせようとしたのだが、
「……おきが、え、……みんな、いっしょ。……リア、ひと、り、は、……いや。」
三人をじっと見つめてそう言ったリアに、キリエはすぐに優しく微笑むと、
「そうだね。艶やかに着飾ったリアを見たいなら、私達もそれなりにしないとね。」
とそれはそれは艶やかな笑顔で言われ、加えて、ペガサスとケット・シー、そしてフーシエンからの
……いいから早く気がえろ!
という無言のオーラを感じてしまえば、二人に逆らう術はない。
先程の話し合いの際に退席し、親族の元に挨拶に行ったカルラと、周辺の海図を求めに網本に向かった船長と副航海士の事がどれほど羨ましかった事か!
さて、同じ頃。
リアと、リアについて行ったエスティのいる別室では。
かれこれ1時間以上髪を弄られたり、顔に何か塗られたりしていたリアは疲れて泣きそうになっていた。
そんなリアをリアの膝に乗ったエスティが一生懸命励ましている。
「……もう、やっ。…りあ、…にぃ、たちの、とこ、……かえ、る。」
「あぁ、神子様。もうすぐですわ!
…本当にもうすぐで出来上がりますので、…ね?もう少しだけお願いします。」
「にゃあ!リア、すごく綺麗になってるニャ!
きっとキリエ兄達も喜ぶニャ!もうちょっと頑張ろうニャ!」
「そうですわ!守護者様方もお喜びになりますとも!」
全員で何とか宥め励ましながらも、着々とリアの着替えは仕上がって行く。
そうして2時間が経った頃ようやく。
最後の仕上げにリアの高く結われた美しい髪に、鮮やかな髪飾りを付け、全ての工程が完了した。
「あぁぁぁ!!!神子様!なんてお綺麗なのでしょう!
さあこちらへ!早速守護者様方に見ていただきましょう!きっとお喜びになられますわっ!」
その後。
もちろん守護者達からの賛辞は言うまでもないが、上位聖獣&精霊の凄まじいまでの興奮と勢いに、香月をはじめ侍女達の心にはちょっぴり後悔、という文字が浮かんでいたのだった。
9尾の狐が守る国11 END
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