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第5章ー43 9尾の狐が守る国-14
同じ頃。
カルラは父の本家に案内されていた。
ヤギュー家は(彼らの文字では柳生)彩国であった時も、緋国が建国されてからも代々網元の家系で、40~50名位の網子(漁師)を使っている。
カルラは父・テッペイの兄だと名乗った伯父と、妹だという2人の叔母、そしてその子供達(カルラから見れば従兄)数名と昼食を共にした後、彼らに囲まれかれこれ2時間以上質問攻めに合っていた。
最初こそ当り障りのない「テッペイは元気か?」という事から始まったが、その後は柳生家の自慢話…
…代々続く網元の家系で~
…(略)…
~緋国では3本の指に入るとか何タラ、カンタラ……。
最初は初めて会う親族達に好意的であったカルラも、一族の自慢話が終わった後は、彼らが神子と呼ぶリアや、フィランド達守護者達の事を休みなく聞かれ流石に疲れてきていた。
そこへ丁度良いタイミングで「宴のお支度を」と、香月の侍女数名が迎えに来た。
これ幸いと、カルラは迎えの車(人力車)に乗ったのだった。
カルラが九重殿に入り、キリエ達同様、緋国の民族衣装に着替えさせられリア達がいる客間に案内されたのは、2度目の着替えをして保護者達に思い切り甘え終えたリアが、エスティの首元と尻尾に自分とお揃いのリボンを付けている時だった。
煌びやかに装飾された客室内には、リアや保護者達の他、巫女の香月と侍女数名、そして当代羅紋と、結構な人数がいるのだが、全員がその視線をリアとエスティに合わせ、可愛らしいやり取りを微笑ましそうに見守っている。
そんな時、案内役の侍女が部屋の引き戸を開け、カルラが帰った事を知らせると、皆一斉にカルラを見た。
もちろんリアも例外では無く、リボンを結ぶ手を止めてカルラを見ると、
「……エスティ、ちょっ…と、まって、て、…ね?」
そして、とてとて、とカルラの目の前まで行くと、じっ、とカルラを見上げた。
「…リア・クランツ?…どうした……?」
「……カルラ、……いた、い…の?…つかれ…た……の…?」
「……そうか。……私はそんな風に見えるか?」
カルラの言葉にリアはこくり、と頷くことで返事をすると、カルラの手をくいくいと引きその場に座らせると、小さな掌をそっ、と、カルラの額へと当てた。
「……カルラ、は、……ち…がう、から、…リアのユグ、あげ、られ……ない……けど、…こう…する、と、……きもち、い……?」
「……!……ああ……心地いいな。疲れが吹き飛ぶようだ。」
額に当てられた小さな掌からふわり、と暖かな流れを感じ、それが長時間にわたる質問攻めで溜まったストレスを、優しく溶かして行くような不思議な感覚をカルラに与えたのだった。
夜。
宴の準備が整ったとの連絡を受け、リア達一行は香月に先導され、九重殿に隣接された舞台の正面に設けられたひな壇に坐していた。
木材のみで作られた舞台を囲むように薪が焚かれ、舞台を照らしている。
舞台では華やかな歓迎の舞が披露されており、不思議な音色を奏でる楽器と合わせ、どこか幻想的な空間を作り上げていた。
リアはキリエの膝に抱かれた状態で、目の前に並べられた根菜の香草焚と茸の吸い物、ピクルスに似た野菜の酢漬、そして五目御飯を見ながら、小さな頭を傾け、何やら悩んでいるようだ。
「…リア?どうした? ここにあるのはリアが食べられる物ばかりだよ。何かお口に入れて見てご覧?」
キリエの優しい言葉に、リアはそれでもじっと何かを考えている様であったが、暫しの後、意を決したように、
「…リア、…これ、たべて…みる。」
そう言って、花や葉の形に美しくカットされた根菜が盛られた椀を差すと、ここへ来る前に香月から使い方を教わった『箸』を小さな手に取った。
そうして、リアの心を掴んだ花形にカットされた人参を狙ったのだが、まだスムーズに箸を開く事が出来ず、結局はブスッ、と刺して口に運ぶのを、キリエは勿論、皆が微笑ましく見ていた。
薄味ではあるものの、甘く煮付けてあるそれをリアは気に入ったらしく、その小さなお口をもぐもぐしながら、にこにこと愛らしい笑顔を振りまいている。
「気に入ったみたいだね。美味しかったかい?リア?」
「うん///……にぃ、も。…はい。」
リアは、キリエの問いかけに、こくん、と頷くと、先程自分が食べたと同じ人参を箸で刺すと、くるりと振り向いてキリエに差し出した。
どこにいようが、通常運転の2人である。
もちろん、多くの人を前にリアがこんなにも普通でいられるのは、ひな壇と外の空間を仕切る “御簾” と呼ばれる間仕切りと、ペガサスの結界のお蔭である。
9尾の狐が守る国14 END
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