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第5章ー44 9尾の狐が守る国-15

宴もたけなわ。 キリエは緋国独特の “ダイギンジョウ” と呼ばれる酒が思いの外気に入っていた。 独特の香りと舌触り。 好みはあるだろうが、外の大陸で飲まれるワインやエールとは全く違う味わいがある。 また、膝に抱いたリアが「にぃ、食べて」と、時々口に運んでくれるピクルスに似た野菜の酢漬も酒の肴に丁度良く、気に入った。 もちろん、何よりの肴は可愛いリアである事は言うまでもないが。 さて、そんなリアは暫くの間、キリエの膝の上に座ったまま酒を飲んでいるキリエの様子をその大きな瞳で『じぃぃーっ』と、見つめていたのだが、やがて周りで同じように酒を飲むライナーやフィランド、カルラを確認すると、 「……リア、も、…それ、…のむ。………ね?…にぃ、…ちょう、だい?」 キリエの持つ杯に小さな手を伸ばし、保護者達を非常に困らせる発言をしたのだった。 リアの発言を聞いた瞬間ライナーとフィランドは、その後の対応はキリエに預けたと言わんばかりに目を逸らした。 カルラもさり気なく目を逸らし、聞こえなかった風を装った。 ちなみに異国文化に戸惑い慣れる事が出来ず、船乗り2人は情報収集後そのまま船へと帰って行った為、 “御簾” のこちら側へ坐するのが許されているのはリア達一行の他には、リアが怖がらなかった香月と次代羅紋のみである。 数名の給仕が行き来はするが、あくまでも給仕である。 そしてその同席を許された2人は。 緋国では13歳から皆酒をたしなむため、特に抵抗も無く『神子様のご希望』として、その願いを叶えるべく給仕に指示をしようとしたのだが、すぐにキリエが目で制しそれを遮った。 「……リア………。これはワインと同じ、お酒だから…ね?リアには多分苦くて美味しくないと思うよ。喉が渇いたのなら、何か苦くない飲み物をもらおうね。」 「……リア、…だめ…?」 「…そうだね、…試しにちょっとだけペロッとしてみるかい?」 そう言って杯に少しだけ浸けた自らの人差し指を、リアの口元に差し出した。 「………!!……ん~💦」 差し出されたキリエの指を好奇心いっぱいの顔をして、ペロッとしてみたリアだったが、その苦さと何とも言えない後味に驚き、どうして良いか分からず泣きそうになっている。 リアの膝でその様子を見ていたエスティだけは心配そうにしているが、その他の周りで見ていた者達は、可哀想に思いながらも、リアの仕草の可愛らしさと微笑ましさに、口元を緩めている。 「……やっぱり違うのをもらおうね。」 クスクスと笑いながらも、リアの小さな頭を撫でて優しく諭すキリエに、リアも素直に頷いたのだった。 そうして香月がリアにと用意してくれたのは、子供用の “アマザケ” という飲み物だ。 「神子様、こちらは緋国でまだ酒が飲めぬ者達が祭りごとの際に飲む、“酒を模した” 物です。とても甘いので神子様にもお気に召していただけると思いますわ。」 にっこり優しい笑顔と共に出された、真白い飲み物。 「……あり、がと。」 幼い口調でひとこと言って受け取ると、リアはくんくん、その匂いを確かめた後、そっと一口含んでみた。 口の中に広がった濃厚な甘さと不思議な風味に、リアはほわん、と花が咲くような愛らしい笑顔を作ると、 「……エスティ、も、…のん、で?……あまく、て、…おいし、よ…///」 膝に抱いていたエスティに己の杯を差し出しながら言うリアを見て香月が 「宜しけれは、エスティ様の分もお持ち致しましょうか?」 と言ったのだが、 「……??…リアと、エスティ、…なんで、も、……はんぶん、…こ…///。」 「「ね~♪」」 最後は2人仲良く顔を見合わせながら、こてん、と首をかしげ声をそろえてのお返事で、香月はもちろん、側付の侍女達を悶えさせたのだった。 アルコール分は無い筈なのだが、ほんの少しだけ香る程度の酒精により、リアとエスティがほこほこと良い気持ちになって来た頃。 香月に「そろそろ…」と促され、次代羅紋が腰をあげた。 そうしてキリエの膝に抱かれたリアの前で2人並んで跪く。 「神子様、守護者の皆様、これより奉納舞及び、剣舞の奉納をさせていただきます故、暫しの間私と香月は中座させていただきます。」 では、と頭を下げた羅紋に、 「……か、げつ、…らも、ん。……おど……り…?」 幼い問いかけに微笑みながら香月は、 「はい、神子様。わたくしが奉納舞を、兄・羅紋が剣舞を奉納させていただきますわ。…もしよろしければ、御簾を上げさせていただいても?」 最後の部分はキリエに向かって問いかけた。 その言葉にキリエはペガサスをちらと見やる。 そして意を汲んだシェラが羽を広げて、前足をとん、と軽く床に着いたのを確認すると、OKを出した。 9尾の狐が守る国-15 END

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