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第5章ー46 古の紋-1

リアはライナーに抱かれたまま、目の前で跪き礼を取る羅紋を、じっ、と見つめている。 暫しの後、今度はライナーとキリエを順に見ると、 「…あの、ね、……リア、こえ、…きこえ、る、…の。…にぃ、…ライナー、…きこえる……?」 「…声、かい?」 「いや、何も聞こえないぞ。…リアは何か聞こえるのか?」 「………。」 何も聞こえないと言い、逆にリアに優しく問いかけるキリエとライナーにリアはこくり、と頷き、もう一度羅紋を見てから、ライナーに腕から降ろしてほしいと訴えた。 「……ライナー、…リア、…おり、る。」 希望通りそっと舞台に降ろしてもらったリアは、跪く羅紋の前にちょこん、としゃがみ込み、顔を下から覗き込んだ。 「…神子様……?」 少し戸惑い気味に羅紋がリアを呼ぶのに、リアは少しの間きょとん、とした後、 「…リア…は、…リアって、……いう、の。」 「……リア様…///。」 敬愛すべき神子より、その高貴な名を呼ぶことを許された羅紋が、感激したように再度最敬礼を取るのを気にした風も無いリアは、羅紋を下から じぃっ、と見つめたまま、マイペースに言葉を続ける。 「…あの、ね、……ら、もん、…ずっと、……よんで、…る、よ…?」 「…呼んでいる…?私をですか…? ……恐れながら神子…いえ、リア様。私には何も聞こえませぬ。…リア様には私を呼んでいる声が聞こえていらっしゃる、と言う事でございますか?」 羅紋の問いかけにリアは幼い仕草で頷くと、しゃがみ込んだ体制からお尻をぺたんと床にくっ付けた、所謂 “ぺたんこ座り” に変えた。 そしてそのまま小さな両手を胸の前で組んで軽く瞳を閉じる。 そんなリアの様子を、雛壇ではペガサスやフィランド達が、また舞台や雛壇から一段低くなった周りでは当代羅紋やその側近達が“静かに”(※港でキリエに巨大な雷と共に笑顔で威嚇された事をしっかり覚えているので)見つめている。 羅紋は固唾の飲むようにその場に固まったまま、キリエとライナーはそっとリアの左右に移動してリアの様子を見守っている。 「…リア?」 時間にして1分程で再び目を開いたリアに、ライナーが声を掛ける。 「…ライナー、あの、…ね、…やっぱ…り、らもん、…よんで…る、の。」 「……そうか。…それでリアはどうしたいんだい?」 続いてキリエに優しく聞かれたリアは、反対側から頭を撫でてくれるライナーをチラと見て少し考える仕草をした後、正面に視線を移した。 そうして、最敬礼のままリアの言葉を待っている羅紋に一生懸命に言葉を紡ぐ。 「……んと、……えっと…ね、…リア、…らもん、…の、おで…こ、……あか…い、もよう、……さわって、い……?」 「…模様…?…この “紋” の事でございますか?」 「…ん、そう。…リア、……さわって、いい?」 愛らしく小首を傾げて尋ねるリアに、顔を上げた羅紋は、今もじわりと暖かく感じる己の紋に一度に触れた後、優雅に礼を取った。 「…リア様の御心のままに。」 古の紋-1 END

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