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第5章ー47 古の紋-2
優雅に礼を取ったまま、リアが額に触れるのを待っている羅紋に対し、当のリアは羅紋の言葉の意味が理解できずに、可愛らしく小首を傾げている。
そんなリアを見てキリエはクスリと小さく笑う。
「リア、羅紋は触っても良いと言ったんだよ。」
頭を撫でてくれながら優しく教えてくれたキリエに、リアは花咲く笑顔を見せ、
「…あり、がと…。……あの、ね、…リア、らもん、…に、……ユグ、あげ…る、ね。」
そう言うとリアはその小さな掌を羅紋の額にそっと当てた。
キリエとライナーは何が起こってもすぐに対処できる様、リアの隣にぴたりと寄り添っている。
そうしてリアが触れてすぐ。
「……!!……ッ…!!!」
羅紋は額がカッ、と炎に触れたかの如く熱くなるのを感じ、思わず声を上げた。
『………よ、………の………声………聞…え………ま…すか……?』
「……!?」
頭の中に直接響くように微かに届いた声に羅紋は驚きながらも、額に触れるリアの柔らかな掌と、じっ、と自分を見つめる瞳に、すぐにこれを聞くのがリアの意思だと思い、目を閉じてその声に集中する。
『…古……の紋………者よ………私……………聞…こ………ます……か?』
そうして少しずつ鮮明に聞こえだした呼び声に、羅紋は意識した訳では無く本能的に音無き声、…つまりは “心話” で問いかけていた。
『…私を呼んでいるのですか?………あなたは誰なのです?』
『…あぁ!私の声が聞こえるのですね。…貴方がこの世に生まれ出でた時より、こうして貴方に見つけていただける時をどれほど待っていた事でしょう。……これもユーグ様のお導きなのでしょうね。……私は人々の祈りから生まれた四獣神が一人、朱雀。古の紋を持ちたる貴方の守護獣です。』
『!!…ユーグ様、とはまさか!?…それに古の紋というのは一体……。』
思わずバッと目を開いて顔を上げた羅紋に、リアはびっくりしてその額から手を離すと、隣で見守っていたキリエに抱き付いた。
そうしてキリエの膝にしっかりと抱き上げられた状態で、羅紋に向かって少し遠慮がちに問いかける。
「…こえ、……きこ…え、…た?」
問われた羅紋は、敬愛するリアを驚かせてしまった事を思いきり後悔したが、幸いにも怯えてまではいない様子に安堵しながら、努めてゆっくり優しく言葉を返す。
「…はい、リア様。…リア様が触れられた瞬間、額の紋が熱くなり、不思議な声を聞きました。……今はもう聞こえませんが、あの声は何だったのでしょうか?」
「…いま、…も、……きこ、え…ない…?……まだ、…ユグ、…ある……の、に……?」
羅紋の答えに少し驚いた顔をしたリアだが、羅紋の額を見つめて今度は不思議そうに首をかしげると、キリエを見上げた。
リアの視線の意味を正しく理解しているキリエは、少し困ったような笑みを浮かべる。
「……四獣神ねぇ。私も初めて耳にする存在だね。…少し落ち着いて情報を整理しようか。」
そう言うとキリエは先程から心配そうに様子を伺っていた香月に視線をやったのだった。
その後、キリエの意を汲んで神子一行の退場を告げた香月により、宴を中座して来たリア達は九重殿の貴賓室に戻ってきていた。
もちろん、羅紋や香月も一緒である。
道中、フィランドに抱っこをせがんだリアは、部屋に戻ってもそのままフィランドの膝上に納まっている。
ちなみにそんなリアの腕にはエスティが納まっている。
リアはごろごろと懐くエスティを優しく撫でてやりながら、精霊が宿ったフィランドの赤い右目をじっと見つめている。
「……リア?どうした?」
「……ん…。…ね、フィラン、ド、…せいれい、さん、…よん……で?」
「フランベルシュの精霊をか?…理由を聞いてもいいか?」
リアの小さな頭に手を置き、優しく尋ねるフィランドに、
「………あの、ね、……んと、…せいれい、さん、と、…すざ、く?………たぶん、ちがう、…けど、……でも、……にて…る、な…の。」
一生懸命に説明するリアは可愛いが、如何せん、理解するのが難しかったリアの言葉も、最近ではかなり分かる様になっていたフィランドは、取り敢えずリアの希望通りフランベルシュを召喚する。
軽く右目に手を当て、意識を集中させると次の瞬間、リア達の前にはフランベルシュの精霊が浮かんでいた。
『ヨンダカ?アルジ?』
古の紋-2 END
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