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第5章ー49 古の紋-4
時は少し進んで翌日。
ファルシオン神殿にて若干大げさにも感じる儀式を見届け、無事にユーグの横笛を手に入れたリア達は、現在九重殿の客間に戻っていた。
香月から託された横笛を一度は手にしたものの、手にした途端、前回のオカリナを吹いた後の事を思いだしたリアは、すぐにキリエへと渡してしまい、その後は一度もそれに触れていない。
今も横笛を視界に入れるのを嫌がり、キリエの胸にべったりと頬を付けた状態で抱き付き、誰かにそれに触れと言われる事を怖がるようにしている。
守護者や聖獣達はもちろんリアの状態を理解し、前回の事も踏まえ、横笛についてはリアが自主的に “触りたい” あるいは、 “吹きたい” と思うまではリアから遠ざけ、話題にもしないという事で一致していた。
キリエは不安気なリアの頭を優しく撫でてやりながら、今リアが一番興味を持っているだろう、“朱雀の捜索について“を、話し出した。
「…リア?…朝話した通り、今日はかくれんぼしている朱雀を探しに行こうと思うんだが? …でも疲れたのなら、明日にするかい?」
その言葉にキリエの腕の中でリアはぴく、と反応する。
「……すざ…く、……さん。」
「ああ。…行けるかな?」
キリエの問いかけにリアは小さく呟くと、顔は上げないまま頷くことで返事を返した。
そんな幼く頼りない様子のリアに対し、キリエは愛しくて仕方ないというように、ぎゅう、とリアを抱き込みながら、リアが興味を示しそうな話題を続ける。
「ただ少し遠いから、近くまではお舟に乗って行こうね。…リアはお舟に乗るの、好きだろう?今度は緋国のお舟に乗るんだよ。どんなお舟かな?楽しみだね。」
「……おふ、ね……?」
そしてキリエの誘導に誘われるまま顔を上げたリアは、すぐに今度は自身の腕の中のエスティを見た。
「にゃあ、リア!元気出たにゃ?お舟、乗るにゃ!」
顔を上げたリアを見て安心したのか、先程まで心配そうに様子を窺っていたエスティは、リアの腕から肩に移動して元気づける様にリアのふくふくほっぺに、頭をすりすりしている。
そんなエスティに、自分の方がお兄さんなのに心配させてしまった事を反省したリアは、
「…ん、リア、げん…き、でた。…ごめん、…ね、エスティ。」
エスティにお返しのすりすりをしながら 『ごめんね』をする。
「「「『『『……………///』』』」」」
そんな2人のやり取りを一見微笑ましそうに見ていた聖獣及び守護者達+αであるが、
くぅぅぅぅぅぅ!!!!
か わ い いーーーーっ!!!
リアの手前、鉄の忍耐で表情にこそ出さないものの、内心は大変な事になっていたのだった。
さて。
船の準備が出来たという知らせを受け、リア達一行は港へと戻って来ていた。
今回一行が乗るのは、緋国の3大網元の一人でもあるカルラの叔父が所有する船だ。
客船では無いため華やかさは無いが、1時間程乗るだけなので問題ないだろう。
問題があるとすれば、カルラの叔父の方だ。
何しろ今回同行するのは、リア達一行の他、緋国では神にも等しいとされる九重や、世継ぎでもある次代羅紋、そしてファルシオン神殿の巫女である香月と側付の侍女数名と、カルラの叔父からすれば雲の上の存在ばかりなのである。
ハイテンションになってしまうのは、まあ、仕方ないとも言えよう。
しかし。
同行者は全員が全員、リアが関わると “仕方ない” という言葉など通用しないツワモノばかりである。
カルラは、香月に丁寧な挨拶をされ、いよいよ異様なテンションになってきた伯父を眺めつつ、叔父が彼ら守護者達の琴線に触れない様、祈るのだった。
そしてリアは。
港へ来るまではライナーに抱っこされていたのだが、港へ到着し、リアの為に一般民衆達の人払いがされると、ライナーの腕から降り、捜索の主役の一人である次代羅紋に興味津々で、エスティと2人で質問攻めだ。
「……ね、らも…ん。…こえ、…きこえ、…ない、の?
…なん、で、…ユグ、……つかわ…ない、…の?
な…んで、おど…り、ライナー、…と…おな、じ…なの、に、…ちがう、…の?」
「にゃあ!それにこの島、変ニャ!ユグが殆ど無いにゃ!
精霊がフーシエン以外にいないのもおかしいニャ!」
拙い言葉ではあるが一生懸命質問するリアに続き、エスティも感じた疑問を素直に口にする。
ちなみにエスティは、緋国の者達と普通に “会話” する九重を見て以来、ほとんどの場合で心話ではなく会話をしているのだが、これはまだ子猫であるエスティにとって、単純に心話よりも声を出す会話の方が楽だったからである。
「……せいれい、さ…ん、……いない、のに………お花、…も…木も、……いっぱ、い……ね。 ……ね? …らも…ん、……なん、で……?」
羅紋の袖あたりを、くいくい、と引っ張る愛らしい仕草に加え、大きな目でじっと見つめて羅紋の答えを待っているリアと、リアの頭の横辺りにふわりと浮かび、同じようにつぶらな瞳で見つめて来るエスティ。
羅紋は、自分に怯える様子なく接してくれる2人に言いようもない喜びを感じていたが、肝心の2人からの質問については、その答えを持ち合わせていない為、逆に問いかける。
「…リア様。残念ながら今も “声” は聞こえません。“ユグ”…と仰いましたが、それは何かの物質なのでしょうか?
…それに先程エスティ殿がこの島にはユグが殆どないと言われましたが、無い事によりリア様達に何か悪影響等はございませんか?
万が一にもリア様に何かあっては一大事。…変調はございませんか?」
リアの前に跪き、視線を合わせて問いかける羅紋。
一方のリアは。
羅紋からの逆質問に、色々一杯で大混乱中だ。
「……ん、…と。……えっ…と……💦
…だいじ、…な、…まん、が、…ち……ぶっ…しつ……?
…へん、ちょ…う、……が、あく、…えい、きょう……?」
『…惜しい!……くも無いが、頑張れリア。』…とは、そばで三人を見ていたライナーとフィランドの心の声だ。
一方羅紋は自分の言葉で混乱してしまったリアを見て心中で猛省していた。
しかし己も慌ててしまうと更にリアを混乱させると思い、ふぅ、と一呼吸置いて自身を落ち着かせると、そっ、とリアの額から手を差し入れ、ゆっくりとその小さな頭を撫でる。
きょとん、とリアが自分を見たのを確認すると、頭からその柔らかな頬へとゆっくり手を滑らせ、そのまま視線を固定した。
「申し訳ございません、リア様。リア様のご質問にもお答えしないまま、私の質問ばかりをしてしまいました。…まもなく出港です。船に乗ったら私ともう一度、ゆっくりとお話をしていただけますか?」
羅紋は殊更優しくゆっくりとした口調でリアに伺いをたてる。
「……ん。…いい、よ…。」
羅紋が醸し出す空気はとても心地よい物であったため、リアは優しく触れる羅紋の手に気持ち良さそうに子猫の様に目を細めながら、素直に頷いたのだった。
古の紋 4 END
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