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第5章ー50 古の紋-5
今日リア達が乗るのは、所謂 “漁船” だ。
三大網元の一人であるカルラの叔父が所有している船の為、普通の漁船よりは大きいが、全長およそ20m、幅6m程の木製で、甲板の後方に操舵室と15人位が座れる食堂兼休憩室があり、地下には獲った魚を溜めておく“いけす”が配備されているだけのシンプルな船である。
船までは小さな桟橋を通り、桟橋から船へ渡した幅30cm程の板を通って乗船する形なのだが、桟橋は海面から10cm程高いだけの位置に作られている為、打ち寄せる波で濡れている。
体の小さいリアなどは、大きな波がくると間違いなく足元をすくわれ、海に落ちてしまうだろう。
もちろん保護者達がそんな危険な場所を歩くことをリアに許すはずも無く、ライナーがリアを抱き上げようとした時、一足早く行動に出た者がいた。
「…リア様、桟橋はお足下が悪うございます故、先導させていただきます。」
そう言うと羅紋は、実にスマートにリアの小さな手を取り桟橋へと歩き出す。
そして2~3歩進んだところで振り返ると
「守護者の皆様方やカルラ殿も、どうぞこちらへお進みください。香月、九重様方を。」
これまたスマートに指示を出したのだった。
「………くそっ。さっきから何なんだ、アイツは。」
「…気持ちはわかるが、どうせ今だけだ。リアの機嫌も悪く無い事だ。…好きにさせておけ。」
気付けばリアに関わっている羅紋にイラつきを顕にするフィランドに対し、冷静に答えたライナー。
しかしそのライナーの答えに対し、キリエが面白そうな口振りで疑問を投げかけた。
「…本当に “今だけ” かな?」
「…どういう意味だよ?」
「…ふふ、どういう意味だろうねぇ? …でも君達二人も、何か予感めいた物を感じているんじゃないかい?」
「「…………。」」
保護者達に微妙な空気が流れる中、リアはと言えば、桟橋に波がかかる度に楽しそうに目を輝かせていた。
リアの頭の横辺りにふよふよと浮かんでいたエスティも勿論好奇心いっぱいで、リアを大好きな水遊びに誘っていたが、そこは今の目的をちゃんと理解してお兄さん風を吹かせたリアに、
「エスティ、…おみず、あそ…びは、……すざく、さ…ん、…みぃつけ…た、したら……ね」と窘められていた。
そういうリアも、実はとても遊びたくて後ろ髪引かれている様子がまるわかりで、でもそんなおまま事の様な2人のやりとりも愛らしく、保護者達の頬を緩ませたのだった。
頬を緩ませたのは、すぐ隣でそのやり取りを見ていた羅紋にも言える事で、
「お二人は本当に仲が宜しいのですね。リア様はエスティ殿の兄君の様ですね。」
優しく目を細めながら羅紋が言うのに、
「…///。……ん…エスティ、…は、リアの、…だいす…き、な、おとも…だち、…で、かぞく、……で、おとう、…と、…なの。」
「エスティもリア大好きにゃ!そしてエスティはリアの召喚獣なのにゃ!これは重要な事ニャ!だからエスティはリア、守るにゃ!」
ちょっと恥ずかしそうに話すリアと、元気いっぱいにリアへの好意を口にするエスティはやっぱり誰がどこから見ても可愛らしく、特に間近で見ている羅紋は、生まれて初めて感じる何か突き抜けるような己の心に、とにかく “表情筋を動かさない” という事だけに全力意識を向けるのだった。
古の紋5 END
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