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第5章ー52 古の紋-7

キリエに羅紋を呼んでおいで、と言われたリアは、その大きな目をきょろきょろとして羅紋を探す。 するとまだ甲板で九重達の方を見て何やら言っているのが見えた。 リアはエスティをライナーに預けると、座ったままのキリエに支えられながら船室の出口へと足を向けた。 しかし揺れの強い船上をリア一人で歩くのは困難なため、キリエに支えられながら出口の扉(引き戸)を開き、そこからぴょこりと顔だけを出して羅紋を呼ぶ。 「ら、もん……///」 少し恥ずかしいのか、羅紋を呼ぶ声は波音に消されてしまう程小さなものであったが、しかしリアが船室から顔を出したのに気付いていた羅紋は、しかっりと声を聞きとめリアを見た。 「リア様。危ないですからそこでお待ちくださいね。」 「……ん。…リア、と、…おはな…し、…しよ…?」 「はい、喜んで。」 愛らしい誘いに、羅紋は頬を緩めながらリアに近付いて行く。 そうして目の前まで来た羅紋にリアはこてん、と首をかしげる。 「…シェラ、と、……フーシエ…ン、…おそ、と……?…なか、こない…?」 「はい。まだお二人でお話があるようでした。何かお二人に御用がおありでしたら、あちらまでお連れしましょうか?」 羅紋の言葉に少し考えていたリアだが、やがて小さく首を振る。 「…ん……いい。リア、…らもん、…と、おはな……し、する。」 「……そうですか。それではお話をいたしましょう。」  …この様子を船室内から見ていた香月は、後にこう語る。  『……頬を染める兄上のお姿など…!幻を見ているのかと、…我が目を疑いましたわ!』 そうして船内に戻ったリアだが、今度はどこに座ろうかとちょっと迷っていたのだが、ライナーがひょいとリアを片手で抱き上げ、元の位置(…つまりキリエと自分の間)に座らせてしまい、リアがきょとん、としている間に、羅紋を向かいのフィランドの隣に誘導してしまった。 まさに早業。 向かいで見ていたフィランドが本日初めて勝ったような気分になり、惚れ惚れした程である。 そして現在。 キリエが “ユグ” についてを羅紋に説明している所だ。 昨日見たファルシオンの記憶玉にもユグは登場しており、大よその役割は理解できていたが、ここ緋国ではユグの存在は知られていないため、いまいちその意味や役割が把握できずにいた羅紋である。 何よりも一番気になっていたのが、ユグのある外の世界から来たリアが、ユグのない緋国で体調に異常をきたしたりはしないのか、という点である。 この点については、大丈夫だとの説明を受けひとまずは安心した。 羅紋がほっ、と息を吐いたところで、待ち構えた様に今度はリアが羅紋に乗船前にしていたと同じ疑問を投げかけた。 「……ね、…らも、ん。…どうし、…て、ユグ、……つかわな、…いの…?」 とても不思議そうな顔で質問するリアに、羅紋は若干苦笑いで返す。 「…リア様。先程エスティ殿がユグが殆ど無いと言われておりましたが、ここ緋国では “ユグ” という物質は知られていません。どんな物なのかも私には分かりませんし、当然 “ユグ” を使う力も持っていないのです。」 「……リア、が…あげた、……ユグ、まだ、……ある…の、に……?」 羅紋の額の “紋” をじっ、と見つめながら、リアはますます不思議そうに首をかしげている。 そんなリアの頭をぽんぽん、と優しく撫でてやりながら、ライナーが新たな疑問をぶつける。 「…フーシエンがアンタの力は “動の力” を言っていたろう?それは具体的にはどんな力なんだ?」 「それは…」 古の紋7 END

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