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第5章ー53 古の紋-8

そして羅紋から語られたのは。 羅紋の持つ “動の力” も、ファルシオンをはじめ緋国の羅紋に多いという “静の力” も、元を辿れば “祈りの力” だと言う。 「紋」を持って生まれた者は祈りを捧げる事により、彩国の守り神と言われる “四獣神” すなわち、「白虎」「朱雀」「玄武」「蒼龍」のいずれかの力を使役する事が出来るのだ。 通常は生涯1獣神のみの力しか使う事は叶わないのだが、ごく稀に複数の獣神の力を使役できる者が生まれる。 羅紋の場合はまさしくその “稀なる者” に当たり、ファルシオンもまたそうであったと伝えられている。 「動の力」とは、主に朱雀もしくは蒼龍の力を使役する力、そして「静の力」とは、主に白虎もしくは玄武の力を使役する力だという事だ。 昨晩リアが愛らしい声で歌っていた神様はそれぞれ、 「おそら おおきなつの」 は蒼龍  「だいち おおきなしっぽ」 は白虎  「ほのお おおきなはね」 が朱雀  「おみず おおきなうろこ」 は玄武 に当たる。 それを聞いたリアとエスティは今回 “かくれんぼ” している朱雀が “おおきなはね” を持っているのだとわかり、羽の色や大きさ、形などを想像して楽しそうだ。 その微笑ましい様子は、どんな時であっても守護者達はもちろん、周りにいる者達の心をほっこりと癒す効果を発揮する。 若干低下気味であったライナーの機嫌も、間違いなく不機嫌であったフィランドの機嫌も瞬く間に上昇したのだった。 同行者達に優しく見守られながらしばしの間、エスティと2人楽しくしていたリアだが、はた、と思いだしたように口を開く。 「…ね、らもん。……すざ、く…さん、…の、…ちから、つか…う?」 「はい。紋を持つ私は、祈りを捧げる事により四獣神様方のお力をお借りする事が出来るのです。」 「……ん、と、…おとも、…だち……?」 「とんでもございません。わたくし共にとって四獣神様は敬愛の対象であり、友達等という存在ではございません。」 リアがどこか期待を込めた瞳で聞くのに、羅紋は申し訳ないと思いながらもきっぱりと否定した。 例えそれが、同じく敬愛対象である神子たるリアの期待に反する答えであっても、羅紋にとって四獣神を友人等と称するのは不遜過ぎる事である。 「……けい、…あい…?」 聞き覚えの無い言葉に、リアは「なあに?」と疑問いっぱいの表情でキリエを見た。 「…そうだねぇ、私やライナーがシェラサードや九重殿に対して感じている物と同じ、と言えば分かるかな?家族でも友人でも無いけれど、とても尊敬しているし大事な相手と言う事だよ。」 リアが想像しやすい例を上げて説明したキリエのお蔭で、リアも何となく納得できたようだ。 そうこうしている間に、船はあっという間に目的地付近へと到着した。 出発したときと同じような小さな桟橋に船が付けられると、予め連絡がされていたのか、数名の民が迎えに来ていた。 香月達と良く似た装いをしているのは、この先にある “山裾の村” の神官と巫女達で、一緒にいるのは村長とその側近達との事。 芙蓉山は古くから信仰を集めている活火山であり、今も薄っすらと煙が上がっている様が確認できる。 標高約4000m。 途中小さな山小屋はあるものの、河口付近へ行くとなればそれなりの準備が必要になる為、今日は山裾の村で一泊し、芙蓉山へは明日の昼から入る予定だ。 船から降りたリアは、ライナーに抱っこされた状態で芙蓉山の頂上付近を、じっ、と見つめている。 「…リア? また何か聞こえるのか?」 ライナーの問いかけに、リアは小さく首を振る事で答える。 「…そうか。なら何か感じるのか?」 今度は隣に立ったフィランドが聞く。 その問いかけには少し考える様に首を傾けると、 「…リア、わかん、…ない。……でも、あそ…こ、いく、の。」 「そう、か。」 小さな指を頂上へと向けたリアに、フィランドは優しく答えると、そのままリアが上げている手を取り、指先にキスをした。 そんなフィランドを見ていたライナーは、小さなため息とともに呟いた。 「…お前、…最近色々突き抜けて来たな。」 古の紋8 END

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