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第5章ー55 古の紋-10

全員を見回し、大丈夫だよという微笑みをもらったリアは、ほっ、とした様に目の前の羅紋の手を取る。 「……こ、っち…き…て。」 先程自身が示した道なき道の前まで行くと、手を繋いだまま擬態したライナーより少しだけ高い位置にある羅紋の顔を見上げた。 「リア、と……いっしょ、に…おねが…い、して、ね。」 そう言うとリアは目前に広がる鬱蒼とした草木の前でぺこり、と可愛いお辞儀をした。 「…えっと、あや…かし、さん…、こんにち、は。……リア・クランツ…です。……リア、と、…らもん、……こっち、い…きたい、の。」 そこまで言うとリアは隣の羅紋を見上げ、その意図をくみ取った羅紋が続ける。 「…妖殿、道を開けてもらえるか?」 羅紋の言葉が終わるとほぼ同時に、目の前の草木が、がさがさっ、と左右に開き、そこには人一人が通れるくらいの狭さではあるが、まぎれもなく “道” が出来ていた。 「……。」 しばし呆然と目の前で起きた光景を眺めていた羅紋であったが、リアがくいくい、と繋いだ手を引っ張るのに、意識を戻す。 「らもん、…だいじょ、…ぶ?…つかれ、た…?」 紫電の瞳に心配そうな色を浮かべ、下から見上げるリアに、羅紋はすぐに目線を合わせる様に跪く。 「いいえ、リア様。お気をお使わせてしまい、申し訳ございません。…初めて見る光景でしたので、少し驚いただけです。」 「…こっち、いけ…る……?」 小首を傾げながらの可愛らしい問いかけに、羅紋は口元を緩めながら大丈夫だと返す。 羅紋の返事にリアはにこぉ、と愛らしい笑顔を見せると、保護者達を振り返り嬉しそうに出発を告げた。 しかしそのまま歩き出そうとしたリアに、保護者達が “待った” をかけた。 「リア、ここからは一人で歩くのは駄目だよ。道が狭くて危ないからね。転んだりしたら大変だ。」 リアの傍までやって来たキリエが、言外に “わかるね?” と込めて、羅紋と手を繋いだままのリアに優しく言い聞かせる。 するとリアは一度同行者全員を見渡し、少し考えた後、羅紋と繋いでいた手を離した。 そして。 !!!!! リアは羅紋に向かってその小さな両手を上げたのだった。 「…リア様……?…キッ……キリエ殿、…これは…?」 求められている事は理解できても、驚きの方が大きい羅紋は戸惑ったようにリアと、その隣に面白そうに立つキリエを交互に見やる。 そんな羅紋をリアは両手を上げたまま不思議そうに見ている。 キリエは2人の様子と、後ろに控える残りの同行者達の苛立ちとを確認すると、くすり、と一つ笑ってから助け舟を出した。 「リアはどうやら貴殿に抱っこしてもらいたいようです。もしご迷惑でなければお願いできますか?…もちろん無理にとは言いませんが。」 「わたしが、ですか?…いや、でもっ…しかしっ……」 リアが来てからというもの、羅紋は心を乱される事ばかりでるが、それを不快に感じる事は全くない。 むしろその逆で、何かをしてあげたくてたまらないのであるが、古からの伝説的存在であるリアに対し、どう接すれば良いのかを計りかねているという感じなのである。 「……リア、…だっこ、……だ…め……?」 2人の話をじっ、と聞いていたリアはしょんぼりと俯いて、キリエの腰にギュッと抱き付いた。 そんなリアの頭を撫でてやりそのまま抱き上げると、キリエは大丈夫だよ、と額に優しいキスを贈った。    古の紋10 END

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