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第5章ー59 古の紋-14
一方リアは、最初はなんだか様子のおかしい羅紋を不思議そうに見ていたが、羅紋が小さな呻き声を上げた事で驚き、「らもん、どこかいたいの?くるしいの?」と、半泣き状態でパニックになっていた。
その大きな瞳から涙が落ちる寸前に、手のかかる子供達をいさめ終えたキリエが、羅紋からリアを受け取る。
「……にぃ、にぃ。……らも、ん、くる…し、い?…いたい、の?…リア、……が、…ちっちゃく…な~れ、…と、…も~どれ、した…から……?…………。」
そうして ぎゅうぅぅっ、と抱き付いて来たリアをまずは強く抱き締めてやり、そうではないよ、と優しく諭す。
「リア、さっきライナー達も言っていただろう?リアはきっかけを作って彼らの力を引き出しただけだ。それに今、羅紋殿がちょっと苦しそうに見えたのは、ライナー達の “いたずら” のせいだからね。リアが気にする事は全くないんだよ。」
「……いた、ずら………?」
そうだよ、双子達がよくライナーやクロスにちょっかい仕掛けて怒られていただろう?とキリエが言うのに、リアはその様子を思いだし少し、ほんわり、と安心したように微笑んだ。
「ライナー、と、…フィランド、…らもんに、あそん……で、ほしかった……の……?」
そう言って、穢れの無い透きとおった瞳を向けられた二人は
「「…ウッ………。」」
と、否定したい気持ちを気力で封じ込めて、「そうだな」「……ああ、そうかも、な……」等、ぼそぼそと聞き取りにくい声音で何とか肯定の言葉を発したのだった。
しかしその答えを聞いて喜んだリアに、帰ったらリアとエスティとライナーとフィランド、皆でいっぱい羅紋に遊んでもらおうね、と、ライナー達はもちろん、羅紋にとっても恐ろしい約束をさせられたばかりか、ふと、羅紋と繋がれた自身の手を見て、
「ライナーと、フィランド、…も、らもん、と、…おてて、つなぎ…たい?」
『リアはさっきいっぱい繋いだし、抱っこもしてもらったから、変わってもいいよ』等と言われた三人が顔を青くさせて、何とか理由をつけて断った事も追記しておこう。
さて。
まるでコントのような若者3人をキリエと九重でからかいながらも、一行はリアが行きたい方へと進んで行く。
道中、羅紋やカルラの疑問にも答えてやる事も忘れない。
「……それでは、リア・クランツの言葉により私達は無意識に潜在的な力を発したと……?」
カルラが信じられないというように呟くのに、キリエは2人の表情を面白そうに眺めながら言葉を続ける。
「そう。君達が深層心理でリアの事をどのように思い、感じているかはそれぞれ違うだろう。
だが根本的には、“リアならできるだろう” あるいは逆に、“出来なくてリアが悲しむのは嫌だ” と強く思ったからこそ、眠っていた力が発動した、というべきかな。」
「……リア様を思う心が力を……///。」
「ククッ…そこで赤くなるなよ、次代。お前にそんな表情が出来るなんてな。……フフッ…まる初恋を知ったばかりの生娘のようだぞ。」
呆然と口に出してしまった己の言葉の意味に気付き、思わず頬を赤く染めた羅紋に九重がすかさず突っ込む。
しかし九重のその言葉は羅紋を慌てさせると共に、その様子を見ていた若い守護者達にも多大な影響を与えた。
「…なっ……こっ、九重様ッ! なんと言う事を仰るのですかっ!!」
「……へぇ。」
「…………。」
そんな三人を羅紋と手を繋いだままのリアと、その腕に抱かれたエスティが、きょとん、とした顔をして見ている。
そして上位聖獣と精霊の間では。
『……世界一愛らしい我が主を中心に始まる、オスたちの熱き戦い……。…ふっ…ふふふっ……この地に封印されたマヌケな狐に騙されるような形でここまで来てしまい若干不本意でしたが…。……これはこれで先の展開が楽しみです。』
「……おい、そこの馬っ! …ったく。自分の主には聞こえていないからと言って、あまりに本音がだだ漏れ過ぎだろっ!!」
やっぱり少し残念な会話がなされていたのだった。
古の紋14 END
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