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第5章ー60 古の紋-15

途中色々ありながらも歩みは止めず、順調に進んでいた一行だが、現在それぞれの理由により立ち往生していた。 まずフィランドは。 この光景を目にしてすぐにフランベルシュの精霊を召喚した。 そうしてそのまま精霊と話しこんでいる。 羅紋は。 ここへ来る少し前まではリアの手を引いて歩いていたのだが、火口へ続くと思われる火山灰が固まって出来た道を抜ける手前でカルラと2人、九重に呼び止められた。 そして何か術を施される。 術に関する説明はなかったが、九重に対する信頼は揺るぎない物であった為、特に気にせず1歩先へと進んだ次の瞬間、すぐに “空気が変わった” と感じた。 それからは最低限リアや守護者達に迷惑をかけないよう、細心の警戒をしながらリアからの指示を待っている。 キリエは。 羅紋が九重に呼ばれている間に、リアとエスティに “ここから先はライナーと一緒にいる様に” と言い聞かせた後はペガサスと何かを確認している風だ。 そしてリアは。 眼下に広がった “真っ赤” な情景にびっくりして大きな目を見開いている。 そんなリアの左肩付近にはエスティが浮かんでいるのだが、同じようにびっくりして下を向いたまま固まっているようだ。 ライナーは。 時折吹き上げる強い風に、火口を覗き込んでいる2人が間違っても落ちたり飛ばされたりしないよう守っている。 そうしてしばらくの後。 「…それで、リア、どうしたいか決まったかな?……下に降りて行きたいかい?」 優しくキリエが問いかける。 それに対し、じっと見つめていた火口から視線を外したリアが、今度は羅紋とそしてカルラを順に見た。 「……リア?」 そんなリアにライナーが先を促すように声を掛ける。 「……あのね、ライナー。…すざ、くさん…が、こっち、に、…くる…なら、らもん、とカルラ……が、“とけな…い…?” よう…に、して、…おいで、……って、いう…の。………らもん、カルラ、…とけ…ちゃう……の?」 ライナーと繋いだ手をくいくい、とひっぱり、なんで?と聞くリアに、 「………そうだな。あいつらは “人間” だから、そのまま行けば底にあるあの “赤” に溶けて無くなっちまうかもな。」 <…実際この場所ですら人間の使う数値にしたら200~300℃はあるだろう。 …さっきフーシエンが結界をはっていたからこそ、あいつらも普通にしていられるんだと思うが… 下へ降りるにはまだ足りないという事か……?> ライナー自身も若干の疑問を抱くところはあるが、それは口に出さずにおく。 リアを除いたマルシエ組は聖獣の力を受け継いでいるため、気温にしてマイナス30℃~800℃位の範囲であれば特別に何かをしなくても耐えられる体を持っている。 エスティについても、まだ子供とは言え、れっきとした聖獣であるため、温度に対する耐性だけで言えば、キリエ達以上だ。 だがリアに関しては、精々人間よりは強いという程度である。 故に、マルシエにいる頃から季節に応じて服装を変えたり、部屋を暖めたり冷やしたり、リアが快適に過ごせるように環境を整えるのは家族達の大事な仕事だった。 もちろん今もリアはキリエとライナーそしてペガサス、3重の結界で大切にガードされている。 だからリアはわからない。 今いるこの場所が人間にとってどれだけ危険な場所であるのかも、更に火口内部はそれ以上に危険なのだという事も。 しかしライナーにこのままでは羅紋やカルラは “溶けて無くなる” と聞いてしまったリアは、泣きそうな顔でオロオロとしていたのだが、キリエにシェラや九重にお願いすれば大丈夫だと聞き、落ち着いた。 そして先程の泣きそうな顔から一転。 リアはにこにこご機嫌に羅紋とカルラの手を引き、シェラと九重の元へ行くと。 「…えっ…と、…シェラ、は、カルラ、…まもって、…ね。…んと、……ここのえ、…ちゃん、は、…らもん、まもっ…てね。」 にこにこ愛らしい笑顔をふりまきながら、実に可愛らしくお願いをする。 もちろんペガサスが愛しい主のお願いを断る訳もなく、カルラには最上級の結界がはられた。 フーシエンにしても、精霊が無条件で魅かれるリアのお願いを嬉しそうに噛みしめ、羅紋にも最上級の加護が与えられたのだった。 古の紋15 END

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