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第6章ー1 西の大国-1

リア達一行が新しい守護者を伴い、緋国を後にしたと同じ頃、西の大国、レイゴット帝国首都「黒い牙」の最上部では、この半年間程で定例となった “極秘会議” が開かれていた。 参加者は毎回皇帝他、ほんの数名のみである。 その数名の中に今回は初めて参加する若者達がいた。 「……それで父上。これは一体何なのです?叔父上方に帝国師団と近衛師団の両トップが集まって極秘会議など…。母上からはアルフリードと2人で参加せよとしかお聞きしておりませぬ故、ご説明いただきたい。」 若者の一人、皇帝と正妃の長子で、皇太子でもあるレイクリードが問う。 今年で27歳になるレイクリードは、既に次期皇帝として本格的な政務にも携わっており、その誠実で実直な手腕により国民からの信頼も厚く、理想的な世継ぎである。 そして皇太子の隣に並び立ち、賢女として名高い正妃・リルフィンと良く似た理知的な眼差しで父王を見つめているのは、レイクリードの実弟で、ことし24歳になる帝位継承権第2位のアルフリード・ブレイブ・レインバーツだ。 剣技に優れ、またレイゴット帝国では誕生しにくいといわれる高位魔術の使い手でもあるアルフリードは、わずか6歳の時に、国宝でもある聖剣・アスカロンの担い手に選ばれて以来、兄と2人、帝国の希望として国民から愛されている。 18歳で成人を迎えてからは、13団まである帝国師団・第6師団の大将を任され、兄が帝位に就く時には総大将になるだろうと言われている。 息子二人に強い眼差しで説明を求められた皇帝であるが、まずは二人を座らせ、実際に説明を始めたのは皇帝の実弟で大臣でもあるラウゼルだ。 「……まず、今から話す事は他言無用じゃ。…よいな?」 「「……。」」 叔父の言葉に2人は軽く目礼する事で同意を示す。 「…昨年の雷の月も終わりに近付いた日の事じゃ。リルフィン妃殿下がある予言を下された。 以来、我らは内密にある人物を探しておる。 ……今から15年前、この城で起きた「悪夢の一夜」と呼ばれる事件、そなたらも耳にしたことがあるであろう。」 「…ええ。二番妃が皇子をご出産されるも死産であったと。待望の皇子であったにも関わらず死産であった事でレイチェル妃は心を病んでしまわれ、今も尚、ご実家にてご静養されていると聞いておりますが。」 詳しい事情までは知りませんが、と前置いて、レイクリードは己が聞いた限りの情報を伝える。 「……フン。民の間では不義の子を身籠った節操のない二番妃が皇帝と全く似ていない赤子を見て、証拠隠滅とばかりに自ら手にかけたとも噂されておるがな。」 レイクリードの控えめな話に付け加える様に、民の間で語られる俗物的な噂話を、正妃の実弟でもう一人の大臣でもあるベルザが侮蔑したように付け加えた。 「…ベルザ殿、お気持ちは分かるが今は控えられよ。」 ベルザを窘めたラウゼルが再び言葉を続ける。 「ベルザ殿が言った噂話の真実はわからぬ。はっきり言えばそなたら2人がおればレイゴットは安泰ゆえ、二番妃の子がどうであろうが我々には関係ない。 ……しかしその15年前に死産とされた二番妃の皇子が実は生きておられるとなれば話は別じゃ。」 !! 「……まさか…!生きていたのですか?」 「リルフィン妃殿下がそう予言された。……そしてその皇子がこの世界を左右する存在であるともな。」 驚きの声を上げたレイクリードにラウゼルは静かに告げる。 「…しかしその皇子は不義の子である可能性があるのですよね?」 今度はアルフリードが問う。 しかしラウゼルは2人を見据え、ハッキリと告げる。 「よいか? 不義の子であるかどうかは “この際関係ない” のだ。リルフィン妃殿下が “この世界を左右する存在” と予言されたのじゃ。例え真実がどうであろうが、その存在が “レイゴット帝国・第4皇子” である事の方が重要なのじゃ。 …この意味はわかるな?」 「……つまりその者が父上の血を引いていようがいまいが、その存在を手に入れるための口実として、第4皇子と称して迎え入れると…?」 「そうじゃ。…その者がどのような力を持っておるのかまでは分からぬ。…しかしそれを他国に奪われる訳にはゆかぬ。」 「…特にあの魔術大国カルフィンの手に渡る事だけは阻止せねばならん。」 ここで、両大臣の言葉を軽く頷きながら聞いていた皇帝・アイーダが初めて言葉を発する。 「レイクリード、この国の世継ぎは間違いなくそなたじゃ。そしてアルフリード、おまえは皇帝となった兄を上手く支えてくれるだろう。だがそこにお前達が使える “駒” がもう一つ加われば我が帝国の力は更に強大な物となる。」 「……つまり我々をここへ呼んだのは、その人物探しをさせるため、…と言う事ですか?」 アルフリードの言葉に、ラウゼルが答える。 「そうじゃ。じゃが動くのはアルフリード、そなただけじゃ。あくまでも内密行動ゆえ、政務をほおり出してまでレイクリードが動くのはまずい。 …まずは他国の……特にカルフィン辺りが何か情報を持っておらぬかを確認してほしい。何しろあの国には “あやつ” がおるからな。」 「…シェルバ・メルケル…ですか。私もカルフィール魔法学校在籍中に懇親会などで何度かお会いしましたが、とても150年以上生きているとは思えぬ程、若々しい力に満ちておりました。」 「…確かに。あのお方は世界一の召喚士としてだけでは無く、侮れぬ。」 アルフリードの言葉にレイクリードが同意を示す。 2人とも親善の名目で、カルフィール魔法学校へは15歳から3年間留学していた為、シェルバ・メルケルはもちろん、カルフィン国王とも面識があるのだ。 「…アルフリード、そなたには来月カルフィンで行われる花祭りに皇帝名代として参加してもらう。 更にその20日程前に行われるカルフィール魔法学校の “学園魔武術杯” にもOB視察を申し入れてある。」 「…要は約1か月、カルフィンに留まる理由付けをしてあると言う事ですね。…その間に諜報活動をせよ、と?」 「そうじゃ。…くれぐれも勘繰られることの無いようにな。」 軍属だけあり話の早いアルフリードに、ラウゼルは満足そうに微笑みながら注意を促したのだった。 西の大国1 END

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