145 / 163
第6章ー2 西の大国-2
レイゴット帝国にて皇子2人が初参加した秘密会議が開かれた日より、時は少しさかのぼって1418年、土の月・38日。
リア達一行は緋国からの帰途2日目を迎えていた。
緋国出港後、再度結界を通過した際は真後ろに “あの大滝” があり、それが幻覚だと分かってはいても、そのスケールに改めて目を見張った保護者達である。
2人の人間と1体の上位精霊・フーシエンによるこの結界は、力自体はほとんどがフーシエンの物であったが、同じく上位聖獣であるペガサスをして、 “悪趣味” と言わしめた結界の構成に関しては、この大滝の幻影を含め伝説のファルシオンによるものだ。
その大滝をじっと眺めながら、ライナーとフィランド、年若い守護者2人は、いつかは出会う事になるであろうファルシオンに対し、より警戒を募らせるのであった。
そして二人とは少し違った感情でこの大滝を見ていたのは、緋国の次代羅紋こと黒曜である。
黒曜にしてみれば、生まれて22年。
初めて自らを指す “名” をもらい、想像も出来なかった程の大きな船に乗り、用途すら不明な不思議な設備と豪華な客室に少し戸惑っていた。
しかし出港から30分、勧められるままソファに座った黒曜には、向かい合うように膝に乗り、心配気な表情を浮かべたリアがぴったりと抱き付いていた。
必然的にリアと常に共にあるエスティも黒曜のそばにあり、純粋に自身を心配してくれる二人のおかげもあり、驚くほど心は穏やかで、故郷を出る不安等は全く感じていなかった。
むしろ、膝に乗ったリアが落ちないように右手で細い腰をそっと支えてやり、少し不安をのせた紫色の瞳がじっと見つめてくるのには、『私は大丈夫ですよ』と、今日は何も飾らずそのままになっている美しいプラチナブロンドを優しく梳きながら、誠心誠意を持って伝えたほどである。
優しく微笑む黒曜にようやく安心したリアも、ふんわりと愛らしい笑顔を見せた。
そうして向かいに座っていたキリエにくるりと振り向く。
「……にぃ、…あの…ね、…リア、……コクヨウ、に、…みせたい…の。」
「…それは良い考えだね。でもリア、もうすぐ結界の境界線だ。何も無いとは思うけれど、念の為に結界を越えるまではお部屋で待っていようね。」
そんなやり取りがあってすぐ、結界の境界線を越えこの大滝を目にする事になったのであるが…。
「……ね、ね、…コクヨウ、みて…。リア、……うさぎ、さん……///。…にぃ、に…おきがえ、さ…して…もらった、…の。」
黒曜が大滝を眺めている内に、いつの間にか着替えたリアが隣に立ち、くいくい、と己の衣を引っ張っていた。
………リッ、リア様っ…!!?
……うっ……うさぎ…!?
たっ、確かにうさぎ、です、……が……。
リアの申告通り “ウサギ” を模した装いだということに間違いは無いが、その姿は閉鎖的な環境で育った黒曜にとって、あまりに衝撃的でありすぐに言葉が出てこない。
そんな黒曜をよそに、
「…みずぎ、……って、いう…の。メイテ…ねぇ、…が、つくって……くれた、…の……///。」
「………あのっ…。リア様っ……その、よくお似合い、なのですが……そのっ…///………キリエ殿ッ……!」
目のやり場に困る、とは正しくこの事であろうと、黒曜は視線をあちこち彷徨わせながら、こちらを見ているキリエを見つけ、祈るような気持ちで呼んだ。
その気持ちが通じたのか、キリエは優しくリアを呼ぶと、小首を傾げて見上げて来たリアを黒曜から離して抱き上げた。
「…にぃ……?」
きょとん、としているリアに
「黒曜殿と遊びたいなら、彼にも着替えてもらわないとね。それまではライナー達と遊んでおいで?」
そう言うとキリエは、抱き上げたリアをそのままライナーに渡したのだった。
西の大国-2 END
ともだちにシェアしよう!