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第6章ー4 西の大国-4
さて。
いつも以上に話題を振りまいているリア達はと言えば。
学園長への説得も滞りなく、フィランドがほぼ一人で終わらせ、その足で学園西の森へ出向いていた。
緋国の旅の間中断していたライナーとフィランドの日課であった、 手合せを再開したのである。
今日はリアとエスティ、そして勿論シェラも一緒だ。
学園武術杯が終わるまではリアをサーガ達へは預ける事はせず、常に自分達の目の届く範囲に置くことも、家族会議で決まった事の1つだ。
正しく真剣なフィランドと、そこそこ適当なライナーの傍で、リアとエスティはシェラに見守られながら仲良く土の魔術の練習をしている。
「…ね、エスティ。……リア、これ…でき…た。エスティ、……あげる。……かわい、い……ね。」
そう言ってリアがエスティの首に飾ったのは、土の魔術を使って地中深くから掘り出した琥珀を、風の魔術で加工し、可愛いらしい花の形にしたペンダントである。
勿論、大好きで大好きで大好きなリアから可愛いと褒められたエスティは、それまでシェラに習っていた土の魔術による結界の練習そっちのけで、リアに抱き付いてぐりぐりスリスリ、大喜びだ。
「にゃ//// リア~!ありがとニャッ!! エスティ、絶対大事にするにゃ~」
このペンダントに限らず言える事であるが、リアが創った物は何であれ、とても強力な護符となる。
これは近しい者達にユグを分け与えたり、浄化したりするのと同じように、リアが意識しての事ではない。
ただリアが贈る相手の事を思って作った結果、そこに穢れない無意識の魔力が織り込まれ、贈られた者に強力な守護をもたらすのである。
ではリア自身も相当な守護力を持っている事になるが、残念ながらリアの力は全て “外へ向かってのみ” 発揮される。
つまり、リアはリア自身を守らない。
守る価値が無いと、強く刷り込みされていると言った方が良いであろう。
幼いころの凄惨な経験から、無意識下でリアは自身を拒否してしまっているのである。
そんなリアを心配する家族達に、キリエは言った。
「……リアは自分自身を守る価値のある者と見ていないのだろう。意識しての事では無いから余計に性質が悪い。
……故に、我らは我らの全てを掛けてリアを守ろう。
魔物からも、…そして何より人間から!」
これ以上何人たりともリアを傷つける事は許さないと、家族達はもう何度も何度も何度も誓って来た。
今はマルシエでキリエとクロスに毎日思いっきり鍛えられている黒曜も、リアの生い立ちや宿命などをつぶさに聞かされ、同じ誓いを強く胸に刻んだのだった。
そして。
フィランドに関しては、学園に戻る直前にシェルバ・メルケルからの情報を聞いてからというもの、騎士としての血が騒いで力が暴走しそうになるのを必死で食い止めている。
今もライナーとの手加減無しの手合せで力を発散する事で、何とか自分を保っているような状態だ。
シェルバ・メルケルからもたらされた情報。
それは来る学杯に「西の大国」からリア達にとっては “招かれざる客” がやって来る事ということ。
カルフィール魔法学校の卒業生であり、西の大国・レイゴット帝国第2皇子、『アルフリード・ブレイブ・レインバーツ』である。
マルシエ侵攻後、聖獣達の呪詛により魔術師が殆ど生まれなくなった彼の帝国において、ランクSという突出した魔力を有している上、剣術においても稀に見る使い手であり、聖剣アスカロンのマスターだと言う。
正直なところ、リアと出会う前までフィランドにとってアルフリードは尊敬すべき先輩であり、目標として目指す存在でもあった。
しかしリア達と出会い、マルシエ滅亡の真実を知り、更には己が主と定めたリアに対する帝国の者達からの非道は、フィランドの心を完全に帝国から切り離した。
「!! …ッ…!!」
無邪気にじゃれ合うリアとエスティを見ながら、フィランドは改めて絶対に己の主を、リアを守ると強く誓うのだった。
西の帝国4 END
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