149 / 163
第6章ー6 西の帝国-6
花の月・10日。
いよいよ学園魔武術杯及び、全校生徒参加の宝探しの開催である。
今回の学杯には大本命と言われていたフィランドやライナーが参加しない事もあり、一部のファン層には大層残念がられたが、反面、この2人がいては優勝など到底無理だと諦めていた生徒達は絶好のチャンスとばかりに奮い立ち、学杯への参加者は例年にない数になっていた。
また、今回は大物OB筆頭であり、歴代トップの成績で卒業した 西の大国、レイゴット帝国第二皇子・アルフリード殿下が来校するらしいとの噂が立ってからは、学杯に参加しない生徒の中にも、少しでも目に留まりたいと思う者が多く、宝探しのエリアを予定より少し上を狙ってみようという動きが出ている。
おかげで、リアとライナーが参加予定の初級エリアは、参加者がかなり少なくなるだろう、とは生徒会長を務めるカルラの会見である。
元々真面目に参加するつもりの無いライナーからしてみれば、どんな理由であれ、自分達の視界から人間の姿が少なくなるのは大歓迎なので特に問題はなかった。
ただ、実力がどうしても足りずに初級エリア参加を余儀なくされた者達の中にも、アルフリードに何とかアピールしようと画策する者はいる。
そういった参加者には絶対に近付かないようにする事が、今回ライナーが一番に考えなくてはならない事だ。
ちなみに。
学杯初日に行われるのは、学杯予選16試合と、10時から17時まで行われる “宝探しゲーム” だ。
二日目(最終日)は、9時から前日の宝探しゲームの表彰をした後、学杯に参加しない一般生徒は基本的に15時まで自由行動となる。
15時からは全校生徒に観戦が義務付けられている、学杯決勝戦、その後、おおよそ19時頃から表彰式と後夜祭が生徒会主催で開催される事になっている。
フィランドは昨夜からアルフリードをはじめ、今回の学杯を観戦する十数名のOB一行との顔合わせやら歓迎会やらが忙しく、戻って来ていない。
アルフリードはもちろん、いずれも学校史に残る成績を修め、現在は各方面でそれぞれ地位ある立場のOB達である。
毎年、学校としてもOB来校の際は最大級の歓迎ともてなしを行うのだが、今回は歴代トップの成績を誇るアルフリードの来校とあって、例年以上の対応が求められ、生徒会役員や実行委員は総出で対応していたのである。
いよいよ学杯初日・朝。
ライナーは腕に抱いていた愛しい温もりに、まずは優しく声を掛けて起こす。
そうして、一応は起き上がったものの、まだぼんやりと小さな手で目をこしこしとしているリアを抱き上げると、愛らしい額にちゅっ、と軽いキスをする。
「リーア。そろそろおはようの時間だぞ。今日は1日ゆっくり散歩しながら、宝探しゲームだ。」
「……ん……う、………ん………?…………!!…た…からもの、さが、し……!」
昨日の夜、明日は “キラキラの宝石探し” をして遊ぶぞ、と聞き、寝る寸前までエスティと2人、とても楽しみにいたイベントに、リアは一気に覚醒する。
慌ててライナーのほっぺにおはようのキスをして、まだころん、と丸くなっているエスティに手を伸ばした。
「……エスティ、…ね、おき、…て。…リアと、きらきら、さが…しに、いこ……?」
宝探し開始約3分前。
殆どの生徒が開始1時間前には挑戦する各エリアに入り、エリア内での拠点作りをする中、開始時間ギリギリに、楽しそうにはしゃぐリアとエスティを連れ、ゆっくりとした足取りで初級エリア入口へとやって来たライナー。
「ライナー君!もう間に合わないかと思ったよ。」
「…予定通りココに参加する」
エリア受付で2人の到着をヤキモキしながら待っていたマーク・ハプソンの心配を華麗にスルーしたライナーは、さらりと参加を告げると、そのまま魔法陣で作られた空間の中へと入っていった。
「………。」
心配していたにも関わらず、ライナーに殆ど無視された形のマーク・ハプソンが、後日同僚のミルアム・ロダにこう語ったという。
兄に大切に抱かれたリアが小さく手を振ってくれたのが、せめてもの慰めだった、と。
西の大国6 END
ともだちにシェアしよう!