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第6章ー7 西の大国-7
初級エリアに入ってすぐ。
ライナーは腕に抱いたリアをそっと降ろすと、リアとリアに抱かれているエスティに確認するように問いかける。
「リア、エスティ、昨日の約束を覚えているな?」
「はぁい!…リア、おぼえて、る。」
「エスティも覚えてるニャ!シェラが張ってる結界からは絶対でないニャ!ねっ、リア!」
「ん。リア、…でない。」
「そうだ。2人ともえらいな。
…絶対に会いたくない人間が今日は学園に来ているからな。
だが魔法の痕跡を隠す事と、リアの負担を減らす為、結界は最小限の範囲になっている。
シェラを中心におおよそ半径5m程度だ。
…何か不測の事態が起こった場合、俺は結界から出る事もあるが、お前達は絶対に出るなよ。」
「「……はーい。」」
ライナーの言葉に2人とも何か思う所はあるようだが、昨日散々ライナーとシェラに言い聞かせられた為、素直に返事を返したのだった。
とは言え、2人がとても楽しみにしていた “宝探しゲーム” である。
ライナーやシェラとて、出来れば楽しませてやりたいと思っている。
狭い結界の中での行動とは言え、皆で一緒に動くため行動を極端に制限されるような事は無く、二人の楽しみを奪う事にはならないだろう。
余談であるが、常に動く者を対象にした “場所を固定しない結界” というのは非常に高度な魔術であり、今人間界にいる者でそれが可能なのはシェラサードを除けば、シェルバ・メルケルの召喚獣・フェンリル位だろう。
そんなシェラの高位結界すら、リアはリアが “出たい” と望んでしまえば、すり抜けてしまえるのだ。
リアを結界内に押しとどめるには、“ここから出てはいけない” と無意識レベルにまで言い聞かせるしかないのである。
しかしリアは自分自身を軽んじる傾向が強く、自身を守る為という理由では無意識レベルまで落とし込む事は出来ない。
その為今回は “子猫のエスティ” を守る為、と理由付けをした。
人間界の常識では『成体でない聖獣とは召喚契約できない』とされている。
故に、子猫の召喚獣を見た人間界の権力者たちに、エスティが狙われるのを防ぐ為、結界を張ると。
当然、リアはそんな心配があるならゲームには出ないと言い、ルピタスの神殿にいると言ったのだが、リアと遊ぶのを楽しみにしていたエスティが結界の中にいれば大丈夫だと、一生懸命説得して今日に至ったのである。
そんな2人の今日の衣装のコンセプトはずばり、『探検隊』だ。
リアは緑を基調にした生地に、ポケットが沢山付いたジャケットと首には赤いバンダナ、下はサファリパンツを穿いている。
頭には可愛らしい猫耳が付けられたサファリハット。
かかと部分に小さな羽があしらわれたショートブーツはキリエからのプレゼントである。
エスティとは赤のバンダナとサファリハット(耳を出す穴付き)がお揃いだ。
そして斜め掛けにした小さいのバッグには、双子から貰った懐中電灯と、クロスからもらったコンパス、そしてリアが大好きなメイテ作、ナッツのスコーンが3つ入っている。
人数とスコーンの数が合わないのはもちろん、リアとエスティはいつもの “はんぶんこ” だからだ。
そしてもう一つ、バッグに入れてられているモノ。
ライナーが最後まで持って行くことを反対したものの、絶対持って行くと言って聞かなかったリアに、本当に仕方なく携帯を許したソレ。
後に、やっぱり持っていかせるのでは無かったと、ライナーが死ぬほど後悔した “オカリナ” がバッグの底で密かに息づいていた。
「ね、ね、エスティ、……いっぱい、とれた、…ね。」
「にゃあ!キラキラ、いっぱいニャ!」
2人が興奮気味に覗き込んでいるのは、さっきまでライナーに持ってもらっていた木の蔓で編まれた籠だ。
これは2つ目の宝石を手に入れた時、近くいた精霊からもらった物で、エスティがすっぽり入りそうな大きさで、その中にはキラキラと光る魔力を帯びた、色形が様々の水晶石が20個入っていた。
初級エリアの為、圧倒的に一番点数の低い白の水晶が多いが、赤や青の水晶も5~6個入っている。
初級エリア内には1000個くらいの宝石が配置されていると言っていたので、それを思えばかなり少ない数であるが、あちこちで地精霊達と遊んだり木の実をもらって食べたりと、かなり寄り道をしながらの成果としては、まずまずだろうとライナーは考える。
宝石を獲得するためには色々な仕掛けをクリアする必要があると聞いていたが、この初級エリアには大それた仕掛けは無く、精々が小さな炎に包まれていたり、手の届かない高い場所にあったり、小さな岩に埋め込まれていた程度である。
これが上級エリアともなると、巨大な火柱の中であったり、分厚い氷中や深さ30mもの水中、中には魔物と戦って手に入れる物もあるらしいので二人にやらせるなどあり得ないが、このエリア内であれば特に危険な仕掛けはないと判断したライナーは、魔力コントロールの練習にもなると、ここまでの課題は全てリアとエスティにやらせていた。
もちろん、1個クリアするたびに嬉しそうにはしゃぐ可愛い子らを、ライナーは1回1回ちゃんと褒めてやった。
そしてきっかり20回目褒め終えた時、少し休憩にしようと、ハナミズキが自生するエリアにやってきた所だ。
そうして集めた宝石をリアとエスティが二人できゃいきゃい言いながら見ていたのだが、ふいにリアが何かに気付いた様に宝石の1つを手に取ると、その大きな目でじいーっと、音がしそうなほど見つめる。
それは小さなリアの片手に丁度収まる位の赤い宝石。
「どうした、リア?」
「……この、こ、…はんぶん、こ。…きょうだい、いる、…の。…リア、この…こ、の、…きょうだい、さがす。……い、い?」
「そいつの兄弟石があると言う事か?…その石が教えてくれたのか?」
ライナーの問いにリアはこくん、と幼い仕草で頷くと、保護者の許可を待つ子供の様な表情でライナーをじっと見上げる。
そんなリアにライナーが陥落しないはずもなく、少し休憩をした後半からはその兄弟石を探す事になった。
END
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