153 / 163

第6章ー10 西の大国-10

「…ほぉ?君は確かイプサム君だったな?先日の懇親会の際にも気になっていたのだが、…面白い瞳をしているな。」 「…。お気づきでしたら話は早いです。…これは最近手に入れた物なのですが、手に入れた数日後、中級魔が学園西に出現し結界を破壊しました。…これはその際、力が暴走した結果です。」 言いながらフィランドがアルフリードへ示したのは、指輪に擬態させているフランベルシュだ。 フィランドが示した指輪を見、それに宿る力を瞬時に見極めたアルフリードは、それまでほとんど変わらなかった表情を微かに驚きに染める。 「…これは驚いたな。ソレが暴走とは…。……力を暴走させた者の末路は破滅か覚醒のどちらかだ。今生きてここにいる、という事は、君は“覚醒者”という事か?」 アルフリードの問いかけに、フィランドは軽い黙礼で答える。 「…なるほど。暴走した力は通常の何十倍もの力を発揮するからな。その力をもって魔物を撃退し、更にはより強力な結界を張ったのか?…流石はカルフィンが誇る世界一の魔法学校だ。生徒もまた規格外という事だな。」 「…その最たるお方があなただと聞いております。アルフリード殿下。」 「ふっ、それで?その力を覚醒させるきっかけとなった者が、先ほどのエリアにいたという訳か?…実に興味深い。覚醒など常人には出来るものではない。君は選ばれた人間なのだな。」 アルフリードの言葉に、彼の側近達は驚きの表情でフィランドを見た。 ちなみにこの場にはアルフリードの側近たちの他、カルラとルマーシェ、そして実行委員会の者も数名いたが、実行委員達にはこの会話が聞こえないよう、あらかじめシールドをはってある。 興味深そうにこちらを見やるアルフリードに、 「…貴方もそのお一人でしょう?」 と返したフィランドだが、その言葉にアルフリードは少し笑ってこちらの想定外の言葉を返してきた。 「いや、私は覚醒者ではない。ソレと同じものに選ばれてはいるが、“覚醒”はしていない。先程も言ったが、覚醒など常人にできる物ではない。余程、魂を揺さぶるような出来事が起こり、かつ、その時点でソレの器となりうる魔力を有していなければならない。更には覚醒に伴う苦痛に耐える精神力がなければ、例え生き残ったとしても精神破綻を起こしてしまう。」 本当に簡単なことでは無いのだと言われ、フィランドはこんな時ではあるが、己の幸運を再度、噛みしめていた。 …あの時、…あの覚醒の苦痛。 確かにあれは、生きながらに体を引き裂かれるような痛みが全身を貫いていた。 あの時の自分を支えていたもの、それは言うまでもなく、リアへの思いだ。 少し物思いにふけるようなフィランドをアルフリードはじっと観察するように見つめる。 するとしばらく黙っていたルマーシェが絶妙なタイミングで口を開いた。 「彼はその際に、騎士としても覚醒したのです。」 その言葉に反応したのはアルフリードの騎士である、ラーゼル・カーターだ。 「…騎士だと?」 「はい。この者は、騎士が主を選ぶ国、ルクフェイルの流れを汲んでおります。」 「聞いた事があるぞ。彼の国には最高の騎士を生み出す町があると。」 「ええ。“真の騎士の里”とも呼ばれているようですね。彼の祖母様がそこのご出身で、彼自身にもその血が濃く表れたようです。」 「騎士の血かっ!それなら規格外の覚醒とやらも納得できる。主を思う騎士は強いからな。」 そうして、自らも忠実な騎士であることを誇りにしているラーゼルは、何度も頷きながら、急に芽生えた仲間意識のようなものに、騎士の先輩として、喜々とその心得などをフィランドにレクチャーし始める。 そんな己の騎士の様子に、アルフリードは  …本当はもっと聞きたいことがあったのだが…  …まあ、私がこの国へやってきた目的とは特に関係なさそうだからまた機会があったら訊ねるとしよう… …と、ギリギリのラインでフィランド達の作戦勝ちを示す結論を出していたのであった。 アルフリードへの説明は真実を所々に織り交ぜながらも、大筋のは作り話である。 真実をそのまま知っているのは、この場ではカルラのみであり、中級魔襲撃事件についての公式発表はアルフリードにしたと同じ内容となっており、誰もがその公式発表がまさか真実ではないなどと疑ってはいない。 今回はそれが功を奏した事となったのである。 西の大国10 END

ともだちにシェアしよう!