155 / 163
第6章ー12 西の大国-12
時は現在に戻る。
今カルフィール魔法学校で行われているのは、学園魔武術杯の予選と、魔武術杯参加者以外の生徒全員が参加している「宝探し」である。
その宝探しも残すところ約40分。
終了時間の30分前から各自の判断で終了させることができる為、リアたち一行はゆっくりと初級エリア出口に向かって進んでいた。
途中で見つけたお宝の石をいくつか回収し、最終的にリアたちが集めたのは、赤→8個、青→10個、白→29個で、合計107点分になった。
ちなみに参加賞レベルの「ご褒美」が貰えるのは合計点数200点以上からで、更に副賞で豪華賞品が贈呈される入賞レベルには少なくとも500点は必要だ。
ライナーはそのことをフィランド達から聞いて知っていたが、人間が作った物に等興味が無かったため、リアやエスティを喜ばせることだけを一番に考えた結果、“寄り道”が非常に多くなり、獲得できた石もこの程度だったのである。
集めた石はエリア出口に数人で待機していた教師たちが回収し、点数を数える事になっている。
そこで問題が発生した。
リアが探したあの赤い“兄弟石”である。
担任でもあるマーク・ハプソンが点数を数え、回収しようとしたところ、それをリアが持って帰る、と言い出したのだ。
これにはマークをはじめ、教師たちは困り顔だ。
なにしろ、リア・クランツの願いを否定することは、ライナー・クランツを敵に回すと同義語だ。
それは困る。
絶対困る。
だって怖いし。
教師たちは考えた。
すごく考えた。
どうすればこの場を丸く収められるか?
今回使われている赤や青といった宝石類はいわゆる“魔法具”で、1個当たりのお値段も結構な額だ。
それを自分達の判断で生徒に与えてしまっても良いのか?
…………。
答えに窮して教師たちが黙り込めば、リアは当然。
「……ライナー、リア、これ、もって…かえ、る、の。」
自らの保護者に訴えることになる。
それまで教師たちの動向を“早く許可しろよ”と威嚇半分、それでも静かに見ていたライナーであるが、
何よりも可愛いリアが、小さな両手に1つずつ赤い石を持ち、自身に向かって訴えて来たら黙っている訳にはいかない。
リア至上主義のライナーにとって、理由など関係なく、“リアの願い=決定事項”だ。
威嚇していた瞳に殺気が籠るのも、ライナーにしてみれば当然である。
早く許可を出さない方が悪いのである。
ぐんっ
と、ライナーがリアを抱き上げたと同時に重くなった気配と殺気に、その場にいたまだ新人で気の弱い教師などは気を失いそうになっている。
もちろん全てはペガサスの結界の中で行われている為、外部に気配を悟られるような事はない。
新人教師が気を失う寸前で、マーク・ハプソンがようやく口を開く。
「わかった。ではそれは先日のお礼も兼ねて、君達にあげる。でも、その2個分の点数は合計から引くことになるけど、それでいいかな?」
「ああ、かまわない。リアもそれでいいか?」
それに、リアもこくん、と幼げな仕草で頷く事で答えた。
かくしてリアの物となった赤い兄弟石は、動きだしたリアの運命を更に加速してゆく事になる。
西の大国12 END
ともだちにシェアしよう!