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第6章ー16 西の大国-16
いつまでも眺めていたい微笑ましい様子に癒されはしたが、事は急を要している。
気を引き締めたライナーは座って考え込んでいるリアを再度抱き上げ、改めてリアに向き合った。
「リア、まだ歌っているか?」
ライナーの質問に、リアはこくり、と頷く事で答える。
「ならばリア、“オカリナさん”に、“今は歌わないで”ってお願いしてくれるか?」
ライナーの言葉にリアはきょとんとした表情で大きな目を更に見開いたが、ライナーやシェラの真剣な眼差しを確認すると、素直に頷き、言われた通りの言葉を発した。
「…オカリナ、…さん。……おう…た、…ね、いま、…は、うたわ…な、いで? …お…ねがい、…ね……?
………
………
………ありが、と。」
リアがお礼の言葉を発したのを聞き、“お願い”が成功したことを確信し、ライナーは安堵の息だ。
今日一日で考えなくてはならない事が山の様に増えてしまった事に変わりはないのだが、取りあえずは良しとして、まずは落ち着ける場所(ルピタスの神殿)に早く帰りたかった。
もちろんマルシエが一番安全で落ち着くのだが、マルシエへの移動にはシェラの力を大きく使う事となり、シェラが大きな力を使う事は、リアの体力を奪う事になるので頻繁には使いたくない。
しかし。
『…主、“ソレ”はメロディを奏でていただけなのですか?
例えば…何か、言葉…歌詞のようなものは無かったですか?』
シェラの問いかけに
「ん、…と。 おい、…で…? ……こっち、だ…よ、……って…ふた…り…?……で、…よん、で…た……。」
!!!!
本日三度目になる驚きと迫りくる危機感に、ライナーはオカリナを持ってきたことを死ぬほど後悔した。
流石のシェラザードさえも、言葉を無くし息をのんでいる。
だが直ぐに我に返った保護者達の次の行動は素早く、瞬きする間にリア達の姿はその場から消えていたのである。
「……にゃっ?! おかえり、にゃあ!」
「エスティ、この場合は“ただいま”だ。」
何も告げられることなく突然、一瞬でルピタス神殿のホール(オカリナが保管してあった場所)へ帰ってきた事に驚くエスティと、さり気なく言葉違いを訂正してやるライナー。
リアも急に景色が変わったことに驚いてはいたが、知らない場所ではないため、一瞬きょとん、とした後は、ライナーの首に抱きついて、おでこをぐりぐりして甘えの仕草だ。
宝探しで張り切っていたのと、魔石へのユグ注入で実はもう体力の限界だったリアは“お家”に帰ってきた事を理解した途端、眠くなってしまったのである。
そんなリアの小さな頭を優しく撫でてやりながら、ライナーは寝室として使っている部屋へと歩き出す。
寝室についた時には既に意識が半分眠ってしまっているリアをそっと寝台に下ろそうとした途端、
「……や、…ぁ。リア、……いっ、…しょ……!」
ぎゅ~、っと再びライナーの首に抱き着くリア。
もちろん、こんなに可愛いリアの“ぐずり”に、ライナーが逆らえるはずもなく、寝台に寝かせるのは諦め、リアを抱いたまま反対の手で毛布を取ると、室内のソファーに寝そべるように腰掛けた。
リアはライナーの上にうつ伏せのような状態でぴったりとくっついている。
今にも瞼がくっつきそうなのに、まだ少しぐずっているリアの腰をゆるく抱いたライナーは、そのまま大きな手で小さなお尻をぽんぽん、と優しいリズムで軽く叩きながら眠りを促してやる。
そうして程なく深い眠りに入ったリアを、今度こそ寝台へと寝かせ、エスティが定位置である、ベッドヘッド付近で丸くなったのを確認すると、シェラの待つホールへと戻って行ったのであった。
西の大国16 END
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