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第6章ー17 西の大国-17
「「……。」」
「「…………。」」
「「………………。」」
カルフィール魔法学校、理事長室は重い沈黙に包まれていた。
現在、理事長室に設置されている8人掛けの応接セットには、片方に理事長のムーガ・ハプソンとフィランド、対面にアルフリードとラーゼルが鎮座している。
発作状態が落ち着いてすぐ、フィランドと2人で話がしたいというアルフリードの希望により、ここへ移動してきたのである。
アルフリードは己一人で話したかったが、ラーゼルはアルフリードの騎士であることを主張し、彼と同行することを譲らなかった為、絶対に口出しをしないことを条件に同席が許された。
学園長であるムーガ・ハプソンについても、同様に学園内で起きたことに関しての責任は全て自分にあると同席を求め、こちらも一切の口出しをしないことを条件に許可された。
しかし理事長室に入ってから約10分、双方が互いの出方を探るように何も話さず、緊張状態が続いていたのである。
「………いい加減話してはもらえまいか?」
フィランドを見据え、その沈黙を先に破ったのはアルフリードである。
沈黙に耐えられなくなったのではなく、単純に先程己の身に降りかかった異常事態の理由を早く知りたかっただけであるが。
「………。」
「沈黙は、君の主に関係があるからなのか?」
揺さぶりをかけるような質問にも一切の動揺を見せず、フィランドはアルフリードをじっと見返している。
無礼な態度にラーゼルが口出し無用の禁を破りかけた時、
「…いえ。…少し考えことをしていました。…先程あなたは、ご自分は覚醒者ではないと言われた。」
「ああ。」
「正直、驚きました。あなた程の方が、まして聖剣がマスターと認めたような方がなぜ覚醒できないのか。」
そこまで言ったところで、とうとう我慢できなくなったラーゼルが無礼者と声を荒げようとするのをアルフリードが制し、フィランドに先を促す。
「ラーゼル、静かにしていろ。……それで?」
「……。先程の音…と言えばいいのか…ともかく先程のアレは、俺が覚醒したときの状況や、その時かすかに聞いた音ととてもよく似ていました。
これはあくまで俺の直観ですが…。」
そこで言葉を止めたフィランドにアルフリードがすかさず命じる。
「よい、話せ。」
「……聖剣があなたに覚醒を促しているのではないかと思います。」
! ! !
驚く周りを気にすることなく、アルフリードが続けて問う。
「…仮に君の言う通りだとしても、このように急激に起こる事なのか?私がこのアスカロンのマスターになってもう十数年が経っている。今になって私に覚醒を促すというのは解せない。」
アルフリードの問いかけは最もであるが、この場合一番考えられるリアの存在について、フィランドは一切話すつもりはなかった。
ゆえに逆に問いかける。
「確かに。故にお聞きしたい。あなた自身、今までと違う点はないのですか?
人や物との衝撃的な出会い、…例えば最近手に入れた物や行った場所で心当たりは?」
フィランドのこの問いかけは賭けであった。
実際、何が起こったのか正確なところはフィランドにも知りようが無かったが、この件に少なからずリアが関係していることだけは確信していた為、何とかリアと接点が生まれる事を回避するため発した質問である。
自分の問いかけに、何でもよいので、相手が“これかも知れない”と、思う事があればフィランドの勝ちである。
はたしてフィランドは賭けに勝ったようだ。
しばらく思案するように沈黙していたアルフリードだが、
「それならば一つだけ心当たりがある。アレが言い伝え通りの物で、アレを受け取った時の私の直観が正しければ、の話だがな。」
西の大陸17 END
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