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11.現在・美鈴③
「詰んだ……」
おもむろにベッドに横になり、枕を抱きしめてゴロンゴロンと左右に転がった。
「詰んだ、詰んだ! 嗚呼もうっ、顔がわかんないんじゃ、どうにも出来ないじゃん!」
私の知らないあの問題の日に智くんがどんな様子だったのか、両家の親以外で唯一知ってそうな人に話しを聞いてみたいと思ったのよ。できれば亮介に話す前に。
でもさ、考えてみたらその人が絶対知ってるとは限らないワケ。ウチだって、ウチの親以外知らなかったワケだしさ。でもまあ、もしかしたら……ってね。判んないけど、とりあえずは当たって砕けろ!と決心したのよ。拓也によく『イノシシ女』って言われるけど、やっぱ突進してみなきゃわかんないモンはわかんないじゃん。
でもねでもね、ここで一番大きな問題発生。
あたし、その人の顔も名前も住んでる場所も知らないの。
詰んだわ……。過去の記憶をさらっても『兄貴』って単語しか出てこないワケ。まあそれも顔さえ知ってたら大きな問題じゃないわよ。でも顔知らない。さすがの私も知らない顔には突進できないわ。突進する場所がわからないんじゃねぇ……。
一応実家は知ってるから、そこへ行って呼び鈴鳴らして今住んでる場所を聞くって手はあるけど、いくらイノシシ女でもそれはダメってのは理解してるわよ。
「詰んだー。詰んだよぉぉぉぉ」
ふと見ると、息子たちが隣で同じようにゴロンゴロン転がってた。「つんだー、つんだー」ってキャイキャイ言いながら。子は親の鏡って言うけれど、やべ……。
「ほらほら、あんたたち、ゴロンゴロンはもうお終い。あっち行くよー」
「えーもぉ?」
「つんだー、つんだー、キャハハハ」
「お終いっ! ほれ、行くよー」
「きゃぁぁぁっ♪」
ベッドぐちゃぐちゃだし……。
「それで、おまえはどうしたかったワケ?」
「智くんの兄貴って人に先に話しを聞いてみたかったのよっ」
「でも顔も住んでる場所も知らなかったことに気がついたと」
「そうよ。もし知ってたら、通勤途中にでもとっ捕まえて話聞いたもん」
「さすが考え無しのイノシシ女」
「るっさいわね」
自分でわかってるけど改めて言われると腹立つわー。拓也のクセに。愛してるけどぉ。
「顔も何も知らないなら、それはもう仕方ないんじゃないか」
「うーん……」
「亮介くんに話す前にやっておきたいことは、それだけ?」
「うん、あとは……無い。思い浮かばない」
「じゃあもう話しちゃえば?」
「うーん……」
「おまえがそこでウンウン考え込んでもどうにもなんないでしょ。おまえは考えるより行動する人でしょうが。それ以上考えても何も浮かばないのは知ってるよ」
「パパひどーい。当たってるけど……」
「何年の付き合いだと思ってるんだ」
さすが私の拓也。悔しいけど当たってるわ。
と言うことで、ついに私は亮介に話すことにしたんだ。場所は我が家。実家は親がいるし、こんな話を外でするのもちょっとマズいってことでね。
亮介を呼び出すのは拓也に任せたの。名目は『模様替え』ってことにしてね。家具とかの配置を変えたいから手伝ってもらいたいってことにして。ついでに息子たちは実家に預かってもらうことにしたわ。意味は判らないとは思うけど、息子たちに聞かせる話じゃないしね。私と拓也と亮介の大人3人。あっ、拓也はサポートよ。私が上手く話せないときのヘルプってワケ。
「義兄さん、おはようございます」
当日、息子を実家に預けてから亮介と一緒に帰ってきたときの第一声。我が弟ながら、相変わらず礼儀正しいじゃない。
「わざわざすまなかったね。まあとりあえずこっち座って」
「あ、ハイ。最近運動不足なんで、身体を動かす良いチャンスだと思ってますから」
「嗚呼そっか……。まあ座って。美鈴、お茶入れてくれる?」
「ハーイ。ふたりとも、ちょっと待っててねー」
お茶を準備してリビングに向かうと、ふたりは和やかに閑談中だった。
「おまたせー」
「さてと……。亮介くん、今日はわざわざすまなかったね。実は模様替えするってのは方便で、亮介くんにウチに来てもらう口実だったんだ。騙した形になっちゃったことは申し訳ない。今日は少々込み入った話をしたくてね。今のところそちらの両親には内緒にしておきたい話だったので、こんな形を取らざるおえなかったわけなんだけど……。
これから話すことはきっと亮介くんにはショックな話だと思うので、心して聞いて欲しい。出来るなら、落ち着いて最後まで聞いて欲しい。と言うか、最後まで聞きなさい。
と言うわけで美鈴? あとはおまえに任せるよ」
「あっ、うん……」
亮介は、緊張した面持ちで私の方を見た。うぅぅ、私も緊張するー。
とりあえず私は深呼吸をひとつしてから、亮介に話し出した。
「えーっとね……、私から亮介に話したいことと見せたいモノがあるんだ。取りあえず見せたいモノは最後にしとくね。
実は私もこのことを知ったのはつい最近のことなんだ。でも話の内容はかなり前、亮介が大学を卒業する直前のことだよ。かなり古い話だけど、きっと亮介は覚えてると思う。
うん……。そもそもの発端は、どうやら私の何気ない一言だったみたいなの」
感情的にならず、落ち着いて、順序立てて。こんなのはあまり得意じゃないんだけど、なるべく私はそれを意識して、亮介に話をしていった。
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