20 / 61

20.これから・智③

 泣き止んで暫くしたら落ち着いたので、カイトさんとリビングに向かった。他の皆は帰ったらしくリビングではケンスケさんだけが待っていた。 「皆は帰ったよ……、って言うか、すごい顔だなぁ。せっかくの可愛い顔が台無し」  笑いながらケンスケさんにそんなことを言われた。鏡を見てないから分からないけど、ヒドイ顔してるんだろうなって自分でも思うよ。カイトさんがお湯で濡らしたタオルを持ってきてくれたんでそれを目に乗っけてみた。じんわりと気持ち良い。 「お腹空いたでしょぉ。食欲が無いような気がしても、それきっと勘違いだから」  そう言ってカイトさんが鮭雑炊を出してくれた。あまり食べたいと思わなかったんだけど、せっかく作ってくれたんだからと口に運んでみた。驚いたことに、一口食べた後はするすると胃におさまっていったから、カイトさんの言う通りだったようだ。 「あの……、いろいろごめんなさい」 「いやいや謝るのはこっちの方だから。ワケも分からず突然で驚いたろ」  謝ったら逆にケンスケさんに謝られた。そう言えば本当に突然だったんだよな。驚いてパニックになっちゃったし。これってさ、皆にドッキリを仕掛けられたって言っても当たってるような気がする。でも何でこんな流れになったんだろ?  そんな疑問が顔に出てたみたいで、ケンスケさんが説明してくれた。 「信一くんから相談されてさ、君と亮介くんを会わせたいんだけどどうすれば良いかって。でもオレもカイトも亮介くんの人柄とか全く知らなかったんで、何とも答えられなかったんだよ」 「そうなんだ。だったら智ちゃんに会わせる前に一度オレたちで会っておこうってことになってねぇ。悪い人じゃないってのは信一から聞いたけどさぁ、でも自分たちで判断したかったの。そんときはコウちゃんもタケルも来てたから、亮介くんにはちょっと悪いことしちゃったんだけどねぇ」  ビックリだ。オレたちが会う前にそんなことがあったんだ。 「それでさ、実際に智ちゃんと亮介くんを会わせるのどうやるかってまたまた悩んじゃってさぁ、で結局強引に会わせることにしたんだ」 「事前に智くんに連絡してから会わせようと思ったんだけどね、カイトが反対したんだよ」 「そっ、オレが反対したの。きっと智ちゃん会わないって言うと思ったからねぇ」  思わず苦笑いだった。カイトさんが言う通り、事前に言われたら会わなかったと思う。会いたいって気持ちはずっと持ってたけどダメだってのは分かってたし、イザ会えるってなってもやっぱり怖くて拒否したと思うから。カイトさんよくわかってるなぁ。 「そんでね、ドアを開かなくしてたのはケンスケだよ~。絶対パニくって逃げ出そうとすると思ったんだよねぇ」  ス、スルドイ……。まったくもってその通りの行動をしたし。 「いやぁ智くんが非力で良かったよ。でなきゃドアが壊れるところだったし」  非力ってセリフにはちょっと納得できなかったけど、がっしりしてるケンスケさんと比べたらオレの方が力が弱いのは仕方ないと思う。でも非力って……男として複雑だ。女性よりは力はあるよ…と、心の中でだけ付け加えておこうと思う。 「何と言って良いかわかんないけど、ありがとう……なのかな。オレ、まだ気持ちの整理とか全然付いてないから」 「それはゆっくりで良いと思うよぉ。焦らない焦らない」  そんなカイトさんの言葉にちょっぴり気がラクになった。  その後は全く関係ない話を3人でしてた。ふたりともオレに気を使ってくれたんだと思う。とは言え内容はふたりの日常生活のことで、もしかしたらノロケ話しをしたかっただけなのかもしれないけど……。もうお腹いっぱいってカンジかな、満腹になっちゃったよ。 「智ちゃーん、今夜泊まってくでしょ? オレさぁ、智ちゃんのパジャマ買っておいたんだよぉ」  そう言ってカイトさんが見せてくれたのは淡いピンクのパジャマだった。きっと最初から今夜はオレを泊める気だったんだと思う。だからパジャマまで準備しておいてくれたんだろうな、その気遣いに感謝感謝だ。でもさ……、何故ピンクのパジャマなんだろうか? 「オレもうすぐ30になるオッサンなんだけど……、何故にピンク?」 「えー智ちゃん絶対似合うって」  ふと見るとケンスケさんもニヤニヤしてた。なんかさぁ、このふたりにイジられてるってのがよく分かるよ。いやいや可愛がっていただいてるんだよな? たぶん……。ちょっと自信ないけど。  何故か夜は3人で同じベッドに寝ることになった。キングサイズだから余裕があるとは言え、結婚したふたりと一緒に寝るのはさすがに遠慮したかったんだ。でも、「たまには川の字で寝るのもいいじゃん」とか「ウチ客用布団まだ準備できてないから」なんて言われるとね。ソファで寝るってのも却下されちゃったし。  そして何故かオレが真ん中で寝ることになった。さすがに焦ったよ。ふたりは両側からオレの頬にキスして「おやすみ~」って言ってそれっきり。だから結局最後はオレも開き直って眠ることにしたんだ。  翌朝オレはケンスケさんに抱きしめられた状態で目が覚めた。ケンスケさんはまだ眠ったままだったから、どうやらオレをカイトさんだと勘違いしてたんだと思う。まあそこまでは許容範囲だよね。でもその後がちょっと……。ケンスケさん、硬くなったモノをオレに押し付けてくるんだもん。がっしり抱きしめられてたから動けないしさ、かなり焦った。結局それに気がついたカイトさんに「浮気者!」って頭を叩かれて気がついたみたいだけど。  その後の夫婦喧嘩についてはオレは何も言わないよ。と言うか言いたくない。  そんなこんなで自分ちに帰ってきたときは、だいぶ落ち着いてたと思う。だから冷静に亮介と会ったときのことを思い出すことができた。  オレ、亮介に対してほとんど何も言えなかったなぁ。パニくってたってのもあるけれど、今思うともうちょっと話せばよかったな。実際はムリだったけどそう思う。  落ち着いた頃に連絡するって言ってたから、そのときはちゃんと話そうと思うんだ。そう思えるのは昨日思いっきり泣いたからなのかもしれない。今のオレは少しだけ前向きみたいだ。

ともだちにシェアしよう!