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23.これから・智④
「相田ちゃん、今日お昼一緒に行くわよ! 相田ちゃんに拒否権は無いからね!」
出社早々すごい勢いで突進してきた及川女史にそう言われた。
うわぁ~なんかメンドクサイ。及川女史のことだからきっと信一絡みだと思うんだよね。あんまり関わりたくないなぁ。午前中の打ち合わせ、お昼休みまで食い込んでくれないかな?
そんなオレの願いは叶わず、打ち合わせは昼休みにかなり余裕を持って終了してしまった。及川女史は昼休みを告げるチャイムと共にオレの腕を引っ張って外に連れ出した。部下たちは、オレたちの様子を目を丸くしながら見てたし……。ちなみにオレの気分はドナドナってカンジだよ。だってめんどくさそうじゃん。
「あのさ……、高梨クンの親友って誰?」
最初は世間話って言うか雑談ぽい意味の無い話をしてたんだけど、注文したメニューが届いた頃に及川女史はそう切り出した。
「えっ、信一の? オレは信一のこと親友だと思ってるけど?」
「…………」
「及川さん、なんかオレのこと睨んでません?」
「相田ちゃんと高梨クンって……、親友ってだけでなく恋人同士なの?」
「はぁぁぁっ?」
突然の女史のその質問に、思わず大きな声が出てしまった。
強引にオレをランチに連れ出したと思ったらこんなヘンな質問するんだぜ。及川女史って何考えてるのかわからん。思わずため息が出てテーブルに突っ伏そうとして……ヤメた。今突っ伏したらオレの顔はカレーまみれだ。
「信一とは親友ってだけ恋人関係では無いよ。及川さん、何でそんなヘンな妄想してんのさ?」
「だってさぁ、会いたくて連絡する度に断られるんだもん。「今は親友の件で忙しい」って理由でここずっとだよ。やっぱ女より男の方が良いのかなぁ……とかいろいろ思っちゃうワケ」
及川女史はしょんぼりした顔でそんなことを言った。彼女に限ってはそんな顔を見ても普段は可哀想って思わないんだけど、今回はちょっと申し訳なかったかなって思っちゃったよ。彼女の言う『親友の件』ってのに心当たりがありすぎるからだ。だからと言ってオレと信一が恋人関係だってのはいただけないけど。
「親友の件ってのは本当のこと。オレ絡みでちょっとゴタゴタしたことがあったんだよ。とりあえず一段落付いたからもう大丈夫だよ。また誘ってみたら?」
「ホントに?」
「ホントホント……って言うかさ、及川さんと信一って付き合ってるの?」
「うーん、その直前ってカンジ? 勢いでちょっとイイカンジになっちゃったんだけど、まだ付き合ってるってワケじゃないと思う」
へぇ……、信一ってやっぱバイなんだ。及川女史の言葉にオレはそんなことを考えていた。とは言え信一と彼女が付き合うってのがイマイチ想像が付かないんだよなぁ。
のんびりしてたら昼休みが終わっちゃうんで、オレはカレーを食べることに専念した。
「時々見せる寂しそうな表情がキュンとくるのよねぇ。出来るなら私の愛で包んであげたい」
「何そのクサいセリフ?」
「及川情報。相田ちゃんを想ってる人はいるってことよ。このセリフは直接本人から聞いたのよ。とりもってあげようか?」
「遠慮しとく。及川さんも人のことより自分のことじゃないの?」
「見返りに高梨クンとの仲を……って」
「却下。オレは一切タッチしません」
むくれる女史を連れて会社へ戻った。人の仲をとりもつってのはすごく難しいことだと思うんだ。そこらへんはオレの苦手分野だと思うから、やっぱムリ。それにオレが何かしなくても及川女史って自分からグイグイ押してくタイプだからさ、手助けしたら逆効果になっちゃいそうなんだよ。
会社に向かって歩きながらオレはさっき彼女が言った『親友の件』ってのを考えていた。
オレは週末ケンスケさんちに行っただけだけど、皆は何回か集まったりしてたんだろうな。事前に亮介に会ったりもしてたって言ってたし。と言うことは何回かの週末はオレたちの為に忙しかったってことだ。あの日は感情的にいろいろ大変で他のことは何も考えられなかったけど、今考えてみるとあいつらはオレのために動いてくれてたんだよなぁ……。
「皆おせっかいだなぁ……」
しみじみと、そんなセリフがオレの口から出てしまっていた。
亮介から連絡が来たのは、前回会ってから10日ほど経った頃だった。かなりぎこちない会話をして、それから週末に会う約束をした。
場所は亮介の提案で、とある大きな公園となった。のんびりと歩きながら話そうかって言われてオレもそれに賛成したんだ。たまには外でのんびりするのも良いのかもしれないなって思って。その公園はかなり大きいらしく、オレは行ったことは無いけれど名前くらいは知ってた。ネットでチェックしてみたら散策コースもあるみたいだった。
ホントのこと言うと、会うってことにはまだちょっと抵抗があるんだ。でも皆は会うべきだって言うし、オレ自身も会っていろいろ話した方が良いんだろうなって頭では理解してる。抵抗してるのは心の方だ。怖いって言うか、足がすくむって言うか……。
普通に話せるかな?
オレの気持ち、ちゃんと隠し通せるかな?
もう何年も経ってるクセして未だに亮介のことが忘れられなくて好きっておかしいよな。しかもオレの方から別れたんだし。再びこうやって会うことにはなったけど、亮介には亮介の人生があるんだから、この気持ちは見せちゃいけないものなんだ。だから友人として接しなきゃいけないと思う。できるかな? でもそうしなくちゃ。
亮介……。
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