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28.これから・信一
もしかして今年のオレは天中殺か何かなんだろうか? 男の30は厄年ではないハズだから、考えられるのは天中殺くらいだと思うんだよ。オレがそんなことを考える要因は、目の前で酔い潰れてる後輩なんだけど、どうしたもんかなぁ……とため息が出てしまうのは仕方がないと思うんだ。ちなみに、ため息の相手はコイツと智と亮介の3人だ。
「ほれっ、もう行くぞ!」
潰れてるタケルを無理矢理起こしてタクシーでオレんちに連れてきた。今は夏だからソファに転がしておいても風邪はひかないだろう。
これがタケルじゃなくてネコちゃんだったら遠慮なく喜んで『いただきます』しちゃうんだけどね。さすがにタケルにはその気が起きない。まあタケルもそうだからお互い様か。
2日ほど前からタケルの様子がおかしかったんだよ。2日前のその日は疲れ果てたような憔悴したようなカンジだった。それを見てオレは、コイツ若さを過信して遊んでやがるなって思ったんだよね。でも昨日も今日も憔悴したようなその姿にさすがのオレも心配になっちゃってさ、今日は仕事終わりに飲みに誘ったんだよ。
タケルは最初渋ってたんだけど、その後ポツリポツリとオレに話してくれた。はっきり言って聞かなきゃ良かったと思ったよ。何も知らない方が気がラクだもん。
「オレは智サンに無理矢理迫って、身体も心も全部オレにくださいって強請って。最終的に智サンは「いいよ」って言ってくれたけど、でもそれはオレが無理矢理智サンに言わせたんだ。オレは智サンの気持ちを知ってたのに……」
こいつは智のことが好きで、挫けず何度も何度も口説いてたんだよなぁ。智の気持ちが自分に向かないのを知りつつもめげずに何度もだ。そんなときに亮介が現れてきっと焦っちゃったんだろうな。うんうんその気持ちよーく分かるよ。オレ自身はそんな切ない恋愛をしたことが無いから想像でしか理解できないんだけどさ、でもまあ分かるさ。
「あんなヒドイことして、もう智サンには会えない。辛いけど頑張って智サンのこと忘れる」
最後は泣き出してしまったよ。はてさてコイツを慰めるにはどうしたら良いんだろうなぁ……。嗚呼メンドクセ。そう思うもののな。オレって良い人だと思うぜ。
翌朝ソファで目覚めたタケルを、オレは躊躇無く蹴り出した。今日が土曜で良かったぜ。タケルも自宅の方がゆっくり寝れるだろう。
それからオレはコウに連絡した。
「ちょっとお願いがあるんだけどさぁ、タケルの面倒見てくれない?」
「何それ?」
「タケル今いろいろあってボロボロなんだよ。こんなお願いコウにしか出来ないし」
「信一とのエッチ1回で手を打ってあげようか?」
「えー、ちょっとそれは……。別の条件じゃ、ダメ?」
「まあいっか。最近タケルには世話になってたから、そのお願い条件無しで受けてやるよ」
一応ほら、オレ今及川ちゃんと付き合ってるからさ、さすがに浮気はマズイかなって思ったのよ。オレって誠実な人だからさ……って、自分で言うとウソくさいな。
さてお次は智だ。
「タケルはこっちで引き受けるからさ、智は気にしないでいいぜ」
「えっ、言ってる意味がわかんないんだけど?」
「タケルは今おおいに反省してるところだ。だから次にタケルに会ったときは普通に友人として接してやってくれや」
「えっ? えっ?」
「じっくり考えたら意味は分かるだろ。ってことでじゃあなっ!」
細かく説明する気はさらさら無いよ。智だってバカじゃないんだからオレの言ってる意味はすぐ理解するだろう。
「嗚呼メンドクセ。さーてお次は……っと」
そうボヤきながらケンスケさんに連絡した。こっから先はデンワじゃムリだから、直接会って相談だ。突然の連絡にも関わらず、ケンスケさんたちは快くオレを迎えてくれた。有難いねぇ。全部が丸くおさまったら、オレは絶対アイツらの金で豪遊するぞ! アイツらってのはもちろん智と亮介だ。
「ベッドのある部屋にふたりを放り込んで外側から鍵かけちゃえは? そのうちその気になっておっぱじめるんじゃないのかなぁ」
カイトさんのそのセリフにオレはギョッとした。直後「阿呆!」のセリフと共にケンスケさんにハタかれてたけど。どうやら冗談だったみたいだ。
「なんつーか、お互いがお互いを好きでいて、だけどお互いがお互いを思って自分の気持ちを引っ込めるってのはさぁ、なんかメロドラマみたいだねぇ。今どきメロドラマなんて流行らないんだけどなぁ」
お互いって単語の繰り返しで、カイトさんの言ってる意味を理解するのにちょっと時間がかかってしまったし。まあでもそうなんだよな。
「信一くんが何とかしてあげたいって気持ちは分かるけどさ、当面は何もしないで見守った方が良いんじゃないのか?」
ケンスケさんのその言葉にオレは黙り込む。見守るしかないのかなぁ、でも見てるとイライラしそうなんだよな。って言うか見ないでほっとけってことか。
「今は何もしないでほっときなよ。そのうち上手くいくかもしれないしぃ、もしくは何か良い案が浮かぶかもしれないしさぁ」
結局カイトさんのその言葉でお開きになった。
なんか疲れたなぁ……。よし、及川ちゃんに連絡して癒してもらおうっと♪
そんな実りの無い相談から2週間後くらいだろうか、久しぶりに亮介から連絡が来たのは。亮介はやっとあの狭い部屋から脱出して新しいところに引っ越したそうだ。それを聞いてオレは閃いちゃったんだよね。だから智と一緒に新居に遊びに行くことにしたんだよ。もちろんオレの方から智を誘ってさ。最初はちょっと尻込みしてたけど、オレの「3人で久しぶりに高校の話で盛り上がろうぜ」って言葉にようやっと頷いてくれたんだ。
まだるっこしいのはこれでお終い。これでもうスッキリさせるんだ。そしてアイツらの金で豪遊だ!
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