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29.これから・亮介④

 引越しから思った以上に時間がかかったけど、やっと家具やら小物やらを一通り揃えることができた。ほとんどのモノを新しく揃えなきゃいけなかったから、時間がかかるのは仕方ないことだ。最初は何でも良いかなって思ったけど、これから長く使うってことを考えると適当すぎるのはダメだよなってね。だから選んだりするのも時間がかかってしまったんだ。  ここの住居は窓のサイズが独特らしく、カーテンは全てオーダーメイドになってしまった。業者を探して来てもらって測ってもらって、カーテンの布地を決めてそれから発注……。ホント、このカーテンが一番面倒だったし。  台所小物は必要最低限ってところかな。とりあえず自炊できるくらいの物が揃ったんで満足だ。そんなワケでオレは大学卒業以来久しぶりに料理とかをしている。久しぶりの料理は悲しいことにイマイチの味だったけど……。ま、そのうちに勘を取り戻すんじゃないかな。  そんなカンジだったので、ここ最近は智と会えてなかったりする。でもお互いの誕生日にはおめでとうメッセージのやり取りなんかしてたので、それだけでもオレは幸せな気持ちになれたんだ。オレはもちろん智の誕生日を覚えてたけど、智もオレのを覚えててくれたのが嬉しかった。  本当のこと言うと智の誕生日には会いたいって思ったんだ。でも今の智には智の生活や付き合いもあると思ったから遠慮した。オレの誕生日も、会いたいってのは我侭だと思ったからガマンした。  智に会いたいな……。  そう思いつつ、オレは智じゃなく信一に連絡を取った。智に会いたいのは本当だけど約束は約束だ、ちゃんとお礼はしないとな。 「久しぶり信一、突然なんだけど週末空いてる? 約束通りメシ奢ろうと思ってさ」 「覚えてたんだ。全然連絡無かったから忘れたと思ってたぜ」 「引越し後のごたごたに結構時間がかかってさ。遅くなって悪かった」 「おっ、ようやっとあの狭い部屋から脱出?」 「おう」  そう言えば信一はあの狭い部屋に来たことがあったんだよな。あまりの狭さに信一も呆れてたっけ。まあオレ自身も狭すぎると思ってたから、その呆れもわかるけど。 「じゃあさ、メシよりも亮介んち行きたい。新居訪問、ダメか?」  突然信一がそんなことを言い出した。野郎のお宅訪問なんて別に面白くも何とも無いと思うんだけど……。 「別にかまわないけど?」 「おし! じゃあさ、智も誘ってくわ」 「えっ智も?」 「そっそ! この3人で集まるなんて大学以来だろ、たまには高校んときの話とかで盛り上がろうぜ」  そんなワケで何故かここに智と信一が来ることになった。日時は土曜の午後2時頃。今週末は智が都合が悪いってことで来週末ってことになった。信一がかなり乗り気で、あれよあれよと言う間に全て決まっていた。智への連絡も信一の方でやっちゃってたし。  なんでこうなった?  別にふたりがここに来ることに嫌とかってのは無いんだけど、信一がものすごくここへ来たがる理由がわからなかったんだ。もしかして引越しとかを考えてて、その参考にここが見たかったんだろうか?  考えても分からないので、とりあえずその日を待つことにした。  そして当日、智と信一がやってきた。  場所はわかるってことだったので、オレはふたりが来るのを家で待っていた。緊張する……。信一はどうでも良いんだが、智が来るってことに緊張する。  ふたりはケーキと、コンビニで適当に買ったスナック菓子を持って来てくれた。きっとケーキは智が買ったんだろう。昔から甘いものが好きだったから。 「結構広いねぇ」  とりあえずふたりをリビングに案内したんだけど、信一はそこからいろいろ物色し始め、ドアと言うドア全てを開けて行く……。別に見られて困るものは無いものの、クローゼットのドアまで開けるのには苦笑いだ。 「引越しでも考えてるのか?」 「うーん、どうだろ……。あれっ、この部屋使ってないの?」  一番玄関に近い部屋のドアを開けた信一が聞いてきた。ひとり暮らしに2LDKは広すぎたってことだ。空きがなくてこっちにしたけど、ホントは1LDKが良かったんだよな。家賃が予算内とは言え、ちょっともったいないことをしたかもって思ってたりする。 「今んとこ使い道が無くて空き部屋。そのうちに何か考えるつもりだよ」  その後はケーキや菓子を食べつつ3人でダベった。高校時代の話を……なんて言ってたくせして、そんな話題はひとつも出なかったりする。お互いの仕事の話や、先日会った同性夫婦――ケンスケさんとカイトさんだ――の話なんかが中心だった。そう言えばカイトさんは、ケンスケさんとケンカする度に智に愚痴りに行ってるって言ってたっけ? 話しながらそんなことを思い出したりしていた。  まあ本音を言えばどんな話題でもオレはかまわなかったんだ。ここに智がいる、それだけで十分だったから。  そんな話が一段落ついた頃、それは突然始まったんだ。 「智、亮介! 今からものすっごく重要なことを話すからな。ふたり共ちゃんと心して聞きやがれだ!」

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