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46.未来を……・亮介②

「オレも……亮介と……一緒にいたい。ずっと一緒にいたい。離れたく……なかったんだ、あのときも本当は、離れたくなかったんだ。でも別れなきゃいけなくて、別れたくなかったのに別れなきゃいけなくて。亮介のためだからって無理矢理自分を納得させたけど、でも本当は全然納得なんかできてなくて、辛くて悲しくて寂しくて。本当はずっとずっと亮介と一緒にいたかったのに。亮介と――」  智のその言葉は、心の底からの叫びのようなものだったと思う。その言葉を聴きながら、全部吐き出してしまえと思った。辛い思いは全部吐き出して、そっから先は幸せになればいいと思ったんだ。  最後には泣き出してしまった。でもきっとその涙は、今まで心の奥に隠しておいた辛い気持ちを洗い流すのに必要なことだと思う。だから気が済むまで存分に涙して欲しい。その後は笑って欲しいと思う。以前の智のように屈託なく笑って欲しいと思うんだ。  泣き止んだ後も智はオレの腕の中にいた。放心したようなカンジで目の焦点も合ってないような……。だから、智が落ち着くまでそのままの体勢でいつつ智を見ていた。……不思議だな、大学を卒業してからもう何年も経つのに、智はあの頃とちっとも変わってないように見えるんだ。久しぶりに再会したときは少し大人びたような気がしたんだけど、今こうやって改めて見ると、やっぱり変わってないような気がする。多少はオレの欲目も入ってるのかもしれないけどね。  その後智とゆっくり食事をしたが、智が座る場所はもちろんオレの腕の中だ。智はかなり照れていたが、それ以外の場所があるとは思えない。これだけ長い間離れてたんだよ、その時間を埋め合わせするべく、くっつくのは当然だと思うんだ。 「やっと智がオレの元に帰ってきた」  思わず漏れた本音、本当にしみじみとそう思った。 「なあ智、今日は泊まってってくれないか?」 「……うん」  断られることはないと思ってはいたけど、それでもやはり了解の言葉をもらってほっとした。  智が風呂に入ってる間にそう言えば……と思い立ち、カイトさんから貰った小箱を開けてみた。今のこの状況は箱を開ける条件を満たしてると思うから。いったい何が入ってるんだろうと開けてみて思わず脱力……。 「なあ智、カイトさんてどんな人なの?」  風呂からあがってきた智にそんな質問するのもわかるよな? だってローションだぜ。まあ実のこと言うと、今家には無いから、有難いって言えば有難いんだけどさ。でもさ、何なんだあの人は……。  さすがの智も箱の中を見て真っ赤になってたよ。カイトさんの用意周到すぎるその贈り物はやはり赤面ものだと思うよな、うん。  ローションの他にはディタが入っていた。ライチのお酒だ。それについてはきっとオレが智との思い出話をカイトさんたちにしたからだと思う。それしか考えられないから間違いない。  そんなことを考えてたら突然智が笑い出した。可笑しくて可笑しくてたまらないってカンジで思いっきり笑って、最後は涙まで出てたみたいだ。やっと智が笑った!って思ったよ。その要因がオレじゃなくてカイトさんだってのがちょっと悔しいけど、久しぶりに見る智のその笑顔は、やっぱり素晴らしかった。嗚呼ようやっと以前の智が帰ってきたって思った。智は笑ってるのが一番似合ってるから。 「やっぱ智は笑った顔が一番だな」  これは本当だ。智はオレの笑顔を反則って言ってたけど、智の方が反則なんだよなぁ。だってオレは智の笑顔に一目惚れしたんだから。  せっかくのカイトさんからのプレゼントだし、早速どちらかを使わせてもらおうと思うんだけど……、どうすっかな。普通はどっちもって選択が可能なんだけど、智の場合酒が飲めないからなぁ、飲んだらきっと即夢の世界だろう……って、もう答えは出てるんだけど。 「とりあえずまあ、懐かしのディタグレープフルーツでも飲みますか」  そう言って智に濃い目のカクテルを作ってやった。  別にもったいぶってるワケじゃないけど、何て言うか、これから先時間はいっぱいあるって思ったんだ。どちらかと言うと、今はオレの前で無防備にくつろいで眠る智が見たいと思ったんだ。きっと飲んだらすぐ寝ちゃうと思うけど、その寝顔が安心したものであって欲しいと思うんだ。そしてオレはそれを確かめたい。確かめてオレ自身も安心したいんだと思う。  案の定カクテル1杯飲み終わって暫くしたら智は眠っていた。その寝顔を伺う。……良かった、智の寝顔はとても穏やかなものだったから。  ベッドに入った後もオレは長い間智の寝顔を眺めていた。じっくり見られてるって知ったら怒るかな? 何て言うか、目を閉じたら智が消えちゃうんじゃないかって思っちゃったりしたんだ。そんなワケないって頭では分かってるけど、でもどうしても心配になっちゃうんだよね。  智の寝顔を見ながら、本当に本当にオレの元に帰って来たんだって思ったよ。そう思うのは今日何度目になるか分かんないけど、またまたその実感をかみ締めていたんだ。  一度離れてしまったオレたちがこうやって一緒にいるってのは、いろんな偶然が重なったからだと思う。その偶然に感謝だな。ホント、ありがとうってお礼を言いたいくらいだ。あっ、でも姉貴だけはヤメておこうと思う。あの人は図に乗るから。  ふと思い立って、智を背中から抱きしめて眠ることにしたんだ。智は覚えてるかな? 覚えてたら嬉しいな。  そうしてオレは幸せな気持ちで眠りに入っていった。  おやすみ、智。

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