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47.未来を……・智④
昨日の残りものとトーストにコーヒーの簡単な朝食を食べながら、今日の予定をふたりで話し合った。と言ってもやることは単純で、オレんちに着替えを取りに行った後スーパーで食材の買出しを行うってだけだ。今日は大晦日だから年越し蕎麦くらいは準備しようってことになった。
「初詣はどうする?」
「明日になってからで良いんじゃないか。たしか近所に神社があったハズだ」
またこうやってふたりで新しい年を迎えることが出来るのが、単純に嬉しい。離れていた時間の分お互い気恥ずかしいけれど、でもこうやって一緒にくつろいでいれるのがすごく嬉しいんだ。とは言え、やはり照れも残ってる。以前のように、一緒にいるのが当たり前になれるかな? そうなるまでにはどれくらいの時間が必要なんだろうか……、何となくオレの方にその時間が必要な気がするんだ。
食べ終わってまったりしてたらインターフォンが鳴った。
「……ハイ」
「年越し蕎麦とおせちのお届けでーっす」
「えっ?」
「カイトだよぉぉぉ」
亮介とふたり、慌てて玄関へ向かった。亮介が玄関ドアを開けると、そこには満面の笑みのケンスケさんとカイトさんが立っていた。予想もしなかったふたりの登場に、うーん……、かなり気恥ずかしいんだけど。
「やあやあ今年も今日が最後になっちゃったねぇ」
そう言いながらふたりは勝手に家の中に入り、ずんずん奥に進んでった。オレは呆気に取られて見てたんだけど亮介は慣れてるみたいで、「あのふたりはいつもこうだぜ」と諦めたような表情をしててビックリだった。
「おせち、お餅、餡子、きなこ! 海苔もあるから磯辺もできるよぉ。全部ふたり分あるからケンカしないで食べてねぇ。あっ、年越しそばも持ってきたから後で皆で食べようねぇ」
カイトさんが言う傍らで、ケンスケさんが持ってきたものをテーブルに出していた。カイトさんが正月料理を作ってたのは見てたから知ってるけど、まさか今日ここに持ってくるなんて思いもしなかったよ。何か昨日からサプライズばっかりだ。
「智くんが着てるのは亮介くんのスウェットか? ブカブカで可愛いじゃないか」
「えっ? あっ!」
「ホントだねぇ。そうそう、智ちゃんの着替え持ってきたよぉ。ここに来る前に寄ってきたんだぁ。適当に選んで持ってきちゃったけど良いよね?」
そう言ってカイトさんから着替えが渡された。カイトさんはオレんちの合鍵を持ってるけど、この場合驚くべきなのか、喜ぶべきなのか、戸惑うべきなのか……、なんて、戸惑ってるんだけどさ。
「カイトさんが智の着替えを?」
「そうだよぉ。智ちゃんちはオレの心の実家だからねぇ」
戸惑ってる亮介にカイトさんはそう答えてた。何なんだこの状況は? オレはもう苦笑いするしかなかったよ。
「カイトとふたりで智くんちを訪ねてみてな、もし留守だったら着替えを持って行こうって話しをしてたんだよ。いない場合の想像ついてたから」
「そうそう、そんなカンジ。鍵開ける前にちゃんと呼び鈴鳴らしたからねぇ」
「嗚呼、ハハハ……」
力なく笑ったオレに誰も文句は言えないと思うんだ。ふと見ると、亮介も似たようなカンジだったし。
その後亮介の淹れたコーヒーを飲みながら皆で雑談をした。………と言うのは嘘で、あれはオレがケンスケさんとカイトさんにイジられていただけって言うんだと思う。亮介はニコニコしながら見てるだけで全然助けてくれないんだ。全くさぁ、少しはオレを助けてくれよ。
「それでさぁ亮介くん、オレからのプレゼント役に立ったぁ?」
「あっ、嗚呼……」
「何々? そろそろオレにも教えてくれよ」
「あ―――っ! カイトさーん、何てもの亮介に渡すんだよー」
「ふふ~ん、仲良くなったら必要なモンでしょぉ?」
「あっ、何となく分かったぞ」
「昨夜は智は酔って寝ちゃったので、あっちの方はまだ使ってないんですよ」
「へぇ~、じゃあ今夜に持ち越しだねぇ。年が明けたら姫始めだしねぇ」
「だーかーらー、カイトさんヤメテェェェェ」
「カイトそれ何本贈ったんだ? 正月休みだぜ、1本じゃ足りないんじゃないか」
「オレとしたことがっ! 3本くらい贈っとくんだった」
「あっ、足りない分は今日買うんで大丈夫です」
真っ赤になってるオレ以外の3人が、にこやかに話してるのが信じられない。ゲイバーで鍛えられて下ネタは普通に話せるハズなんだけどさ、その話題の中心がオレ自身ってなると無理だってば。
ケンスケさんとカイトさんにはいろいろ迷惑とかかけちゃったから、ここでイジられるのは甘んじて受けようって思うけどさ、でもやっぱ照れとかがあって平常心じゃいられないよ。まったくもう、皆ヒドイんだからさぁ。
一通り騒いだ後は皆で年越し蕎麦を食べて、そしてふたりは帰って行った。
「良い人たちだな」
「うん」
全くだ。ふたりともオレの素晴らしい友人……仲間だ。
帰り際カイトさんが「たった1日だけど、智ちゃんの表情がすっごく柔らかくなったねぇ」と言っていた。オレ自身はよく分からないんだけどそんなもんなのかな? それを言われたとき隣にいた亮介はオレの頭をくしゃって撫でてた。その仕草にたまらなく安心する。うん、そうだね、オレの表情が柔らかくなったとしたら、それはきっと亮介のおかげだと思う。
「ちょっと休んだら、飲み物とか買いにスーパー行こうか?」
そう言ってオレは亮介に笑いかけた。
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