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51.ReSTART・智①
正月休みも終わり、仕事始めの日から怒涛の残業ラッシュとなった。年末の時点で分かってたことであり、担当チームのリーダーたちには事前に釘をさしておいたとは言え、休みボケした頭にはキツいものがあったみたいだった。実を言うとオレもかなりキツかった。なんせ休み中はネジがぶっ飛んでるような状態だったからね。自分では気を引き締めているつもりでも、周りから見るとちょっと違ってたみたいだ。
「相田さん、休み中に何か良いことあったんですか?」
「えっ? うーん……、どうだろうね」
残業時間に、今一番忙しいチームのリーダーにそう聞かれてしまった。気をつけてるんだけど、やっぱり雰囲気とかに出てるんだろうか?
そしてもうひとり、こいつの頭は大丈夫か?ってヤツがここにいた。
「相田ちゃーん、うへへへへへへ……」
「うわっ、その気持ち悪い笑いヤメてくれよ」
なるべく目を合わせないようにしてたんだけど、どうやらそれに痺れを切らしたみたいで、昼休みに強制連行されちゃったし。誰にってのは想像つくと思うんだ。
「年末年始はねぇ……、ずーっと信一クンと一緒にいれたのぉぉぉ」
「あーハイハイ」
「アタシ、信一クンちに引っ越そうかしら」
「えっ?」
「そしたらもっと一緒にいれるしぃ、エッチもできるしぃ」
「あのボロアパートに?」
「それが問題なのよねぇ」
いやそこは信一と相談してくれよ。オレに言っても仕方ないと思うんだよね。とりあえずオレは、自分の世界に浸ってる及川女史をほっといて、注文したパスタを食べることに集中した。それにしても、信一と及川女史がここまでラブラブになるとはねぇ……。まあいいや。
そう言えば亮介に作った料理の資金提供元って信一らしいんだよな。カイトさん曰く「ペナルティで徴収した」ってことだったけど、その理由が亮介もオレも分からないんだ。信一何かヘマやったのかな? まあそれは置いといて、ちょっと照れくさいけどまた亮介とくっついたってのは、報告した方が良いのかもしれない。恥ずかしいから電話じゃなくメールにしとこうかな。もしかしたら既に亮介の方から連絡が行ってるのかもしれないけど、でもやっぱオレの方からも報告すべきだよな。
それからもうひとり……。思い出すとやっぱり胸が痛くなる。もう一度友人になりたいってのはオレの我侭だろうか?
「何辛気臭い顔してんの? 私の幸せ分けてあげましょうか?」
「えっ? いやいや間に合ってるから。分けられてもゴミ箱に捨てるから」
「相田ちゃん、ひどーい」
とりあえず、この女史はほっとこう……。
週末は亮介がオレんちに泊まりに来てた。1月いっぱいは仕事のスケジュール的に忙しくて帰宅が深夜近かったから、来てくれるのは有難かった。それに、週末は週末でやらなきゃいけないことがあったから、手伝ってくれる亮介には感謝感謝だ。
「感謝するのは変じゃね? だってオレも当事者だし」
亮介はそう言うけどさ、やっぱり感謝の心は忘れちゃいけないと思うんだよ。
平日は仕事して、週末は亮介とイチャイチャして……って、忙しいけど何だかんだ言って今のオレはめちゃ充実してるのかもしれないな。そして、亮介と一緒にいれば一緒にいるだけ離れ難くなってしまうんだ。日曜の夜に帰って行く亮介の背中も寂しそうだった。オレも寂しい。オレってこんなに乙女だったっけ?って、われに返ったとき赤面しながらそう思ったし。
1月最後の日曜に兄貴からデンワがきた。
「次の日曜時間取れるか?」
「ん? 内容によるけど、優先することは可能だよ」
「じゃあウチに来てくれ」
「ウチ?」
「実家だよ。場所は忘れてないだろ?」
「忘れるワケないじゃん。……っていいのか?」
「嗚呼、親父がやっと智と顔を合わせる気になったんだ」
「…………」
「夕方には優子も来るから、未来の家族全員集合だ」
「…………」
「智、大丈夫か?」
「……うん。とりあえず分かった」
「卑屈になる必要は無いからな。堂々と胸張って帰ってこい」
「分かった。兄さんありがとう」
デンワを切ったオレの手は震えていた。
父と顔を会わすのはあの日以来だ。まだ一週間あるとは言え、会うってことを考えるだけで緊張してしまう。きっと会うのが怖いんだと思うんだ。あの日殴られたことよりも、オレを見るその目に傷ついたんだ。オレを見る父の目がとても冷たくて、それが一番ツラかったんだ。久しぶりに会ったとき、やはり父はそんな目でオレのことを見るんだろうか?
怯える一方で、父との再会がこのタイミングで良かったと思ってる自分もいるんだ。いろんなことが動いていて、きっとこれも解決する必要があることなんだと思うから。
もう子供じゃないんだから、今度こそちゃんと向き合おうと思った。
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