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54.ReSTART・智④

 引越しは滞りなく終了した。どちらかと言うと不用品の処分の方が面倒だった。不用な物は全て廃棄しようかと思ったけど、一応現役だからリサイクルに回せるものは回すことにしたんだ。事前に見積もりをしてもらってたから、当日は引き取りに来てもらって精算して終了。  オレんちにある家具、家電の中で亮介んちに持ってったのは小ぶりのチェストとノートPC、そしてテレビだけ。あとは全部不用品。今まで使ってたものに愛着は無いのかって言われると微妙だけど、でも同じものが亮介んちにあってしかもそっちの方が新しいってなったらさ、やっぱオレのを処分するよね。  逆に家電品以外で台所にあったものは全て持ってきた。亮介のとダブってるのもあるから、そこらへんはゆっくり確認して処分する予定だ。まあさすがに、オレの使ってたボロいフライパンだけは捨てたけど。  オレの持っていったチェストとテレビは空いてた部屋に入れた。そこには今まで亮介が使ってたベッドを移動させて、寝室には、まあなんだ……、新たにデカいベッドを買って入れた。うぅぅ、なんか照れる。 「晩メシどうする? やっぱピザとコーラか?」 「先に言われちゃったかぁ。オレもそう思ってたよ」  大学進学とともに一緒に住み始めたその初日に食べたメニュー。当時は仕方なくそのメニューになったんだけど、今はあえてそのメニューだ。ふたりとも同じことを考えてたのが可笑しくて、つい笑ってしまったし。 「そう言えば、乾杯しながらクサいセリフ言ってなかったっけ? 智に笑われたのだけは覚えてるんだけど……」 「何か言ってたねぇ。うーん、何だっけ?」 「「これからのオレたちに乾杯」」  何故かふたり同時に思い出してハモってしまった。ひとしきり笑った後グラスを持って、カチリと乾杯した。たしかあのとき、オレに笑われてスネた亮介の顔が可愛く見えたんだよなぁ。ニヤニヤしながらそう言うと、ほらね、やっぱりスネた。 「ベッド行く?」  ごく自然にキスをして、それが徐々に深まって、身体全体が熱くなった頃亮介にそう聞かれた。 「先に……風呂がいい」 「じゃあオレが洗ってあげる。洗って……、それ以上のことも」 「大歓迎だ。待ちきれない」  湯船にお湯を溜める時間も惜しくて、シャワーの湯気が煙るなか亮介と愛し合った。オレの身体は頭の天辺からつま先まで、そして中も、全て亮介の手でキレイにされた。その手つきがやらしくて、風呂場を出るまでに2回もイってしまったし……。  ベッドの上でも亮介は容赦が無かった。オレを煽るだけ煽って、実際に亮介と繋がるまでに何回イったかもう覚えてない。繋がった後、ふと漏らした「オレの智」って言葉にオレはまたイってしまった。そう……、オレは亮介のモノで、亮介はオレのモノなんだ。 「亮介、亮介、亮介っ、ああぁぁもっと、オレの中を亮介でいっぱいにしてくれ」  会えなかった年月の分だけ、再会しても素直になれなかった月日の分だけ、オレは貪欲になる。オレは亮介が欲しい。身体だけじゃなく心も。そしてその全てを与えてくれる亮介にまた溺れる。もう二度と離すもんか、誰が何を言ったって、それがたとえ亮介自身だったとしても離してやれない。ガマンしてたオレの殻をぶち壊したんだから、亮介には一生その責任を取ってもらうつもりだ。 「智、智、愛してる。智の全てはオレのモノだ」  オレと繋がって、そう言いながらオレの首筋に噛み付いた亮介。オレの脳は痛みを快感として処理し、その快感に亮介のモノを締め付ける。オレの中は亮介が出したものでグチュグチュと音がしていて、その音にますます煽られてしまうんだ。 「一生……、オレを離さないでくれ」  朦朧とした意識の中、何とか言えた言葉、オレの本心。そしてその言葉を最後にオレの意識は沈んでいった。  翌朝オレはベッドの上で、亮介の作ってくれた牛乳と砂糖入りの甘いコーヒーを堪能した。 「がっついてゴメンな」 「謝る必要はないよ。それに……、ジジイになったらがっつきたくても無理っしょ」  呆れた顔をした亮介にオレは軽くキスをした。どうやらそれが呼び水になったらしく、気がついたときには亮介に抱かれていた。腰が動かないから全て亮介のなすがまま。でも与えてくれる熱が嬉しくて、オレにとっては至福の時間。 「智ちゃーん、次の週末遊びに行って良い? 報告したいことがあるんだ!」 「たぶん大丈夫だと思うよ。報告したいことって?」 「んふふ、それは会ったときのお楽しみ。ケンスケとふたりで行くねぇ」  スマホから聞こえる、めちゃめちゃ機嫌の良さそうなカイトさんの声に、何の報告だろうって気にはなったけど、会ったときのお楽しみって言われたら仕方ないよね。亮介に聞いたら特に用事は無いってことだったから、予定通り会うことにしたんだ。それにあのふたりには今さら隠すことなんて無いし。どちらかって言うと、オレたちの方が、一緒に暮らし始めたことを報告しなきゃいけなかったんだし。  そして週末、ふたりはオレんち……オレと亮介の家に遊びにきた。 「ここってゲストルーム? うぉっすげえっ! チェストの一番上にオレの着替えが入ってる! さすが智ちゃん、これで気兼ねなくケンスケとケンカできるよぉ」  引っ越すときに持ってきたカイトさんの着替えを、とりあえずチェストの一番上に入れただけなんだけどね……。まあ今後もカイトさんがオレんちに来る可能性はゼロじゃないし、亮介も苦笑しながら納得してくれたからオレとしては良いんだけど、ケンスケさん的にはどうなんだろ? 「まあ、ヨロシク頼むわ」  苦笑いしながらケンスケさんはそう言った。カイトさんだからね……、まあケンカしないのが一番だけど、あのふたりならゼロってことは無いんだろうな。主にカイトさんが。  コーヒーの準備が出来たのでリビングに移動した。そのとき小さな声で亮介に「ありがとう」って声をかけた。淹れてくれたのは亮介だから。  リビングではケンスケさんとカイトさんがソファに座って、オレと亮介はその向かいのラグの上に座った。 「で、報告したいことって何? 今週ずーっと気になってたんだよ」  オレの言葉にケンスケさんとカイトさんが目で会話をする。でも最終的に「おまえが言えばいいじゃん」ってケンスケさんの言葉にカイトさんの目がますます輝いたように見えた。 「あのねぇ……」 「うん」 「えぇっとねぇ……」 「うん」 「だからねぇ……」 「うん……。だから? 溜めすぎだよカイトさん」  言いたくてたまらないんだけど言うのが勿体無い。そんなカイトさんに合わせてたけど最後は痺れを切らしてしまった。ケンスケさんは呆れて笑ってるし、亮介は不思議そうな顔でふたりを見てた。 「ごめーん、でも嬉しくってさぁ。オレ先週から関口海斗になったんだぁ」  満面の笑みで言われたそれ。理解するのが一瞬だけ遅れた。 「それって……」 「法律的にもケンスケと家族だよぉぉ」  そっから先はなし崩し的に宴会だった。ビールやワインはカイトさんたちが持ってきてくれてた。オレは酒が飲めないからね、ウチにアルコール類はほとんど無いんだ。ケンスケさんと亮介が飲み始めたをの契機に、カイトさんとオレは台所でツマミを作った。まぁ……、ほとんどカイトさんが作ってオレは助手ってカンジだけど。でも冷蔵庫にあるものでいろいろミラクルなレシピを披露するカイトさんはすごいと思ったんだ。 「再来週にお祝いパーティをウチでするからさぁ、智ちゃんも亮介くんと一緒に来てねぇ」  そう言われて一も二もなく頷いた。  ケンスケさんたちが帰った後オレはとても重要なことに気がついた。そのお祝いの席にはタケルも来るハズだってことを……。  何と言って顔を合わそうか? いつかは話したいと思ってはいたけど、その勇気がなくて今に至ってる。あれからもう半年……、タケルはどうしてるんだろう?

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