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55.ReSTART・智⑤
再来週……と言うか約束した当日、オレと亮介は当初の約束よりかなり早い時間にケンスケさんちにお邪魔していた。お祝いパーティってことは、カイトさんのことだからいろいろ料理するってことなんだ。年末の実績をふまえて、オレにも手伝えることがあるんじゃないかって思ってね。カイトさんはオレの申し出に素直に喜んでくれて今に至るってワケ。
ちなみに亮介はケンスケさんと盛り上がってる。そこまで仲が良かったっけ?って不思議に思ったんだけど、ふたりの話してる内容が下ネタ――それもかなり実践的な――だったんでほっといた。いや、本音を言うと情報交換して欲しくないって思ったよ。まったくさぁ……。
「よぉ!」
約束の時間の少し前に信一がやってきた。
「久しぶり信一。及川女史と上手くいってるみたいじゃんか」
「まあな。……って言うか、智は亮介とラブラブなんだろ?」
その言葉に瞬時に顔が赤くなる。「まったく、30になっても初心でやんの」そうボヤきながら信一はリビングに入っていった。初心って何だよ!って言い返したかったけど、さすがにリビングに追いかけて言うワケにもいかず諦めた。こんな奴がが及川女史の彼氏なんだよなぁ。あの顔のどこがイケメンだっつぅの。及川フィルター恐るべし……、なんて半分八つ当たりだけど。
それから少ししてスマホから呼び出し音が鳴り、カイトさんは玄関へ向かって行った。
「智ちゃーん、こっち来てくれるぅ?」
カイトさんに呼ばれてリビングの方へ移動すると……、そこにはタケルが立っていた。
「タケル……」
タケルは一瞬だけ泣きそうな顔をして、それからニッコリとオレに笑いかけてくれた。久しぶりに見るそのタケルの姿に心が痛い……。
「お久しぶりです智サン。それと……おめでとうございます。亮介さんと復縁したって聞いてますよ」
「タケル……ごめ……」
「そんな顔しないでください。オレは智サンが幸せなのが一番嬉しいんですから」
「うん……」
「あんまり悲しそうな顔してたら、亮介さんから奪っちゃいますよ」
そう言ってタケルはオレを抱きしめて額にキスした。
「タケルごめん。それから……、ありがとう」
思わずオレもタケルに抱きついた。
余韻に浸りかけたんだけど、背中の方から叫び声が聞こえてきて我に返った。見上げたタケルの表情は、おまえは悪代官か?ってくらいの悪い笑顔だった。叫び声に心当たりがありすぎて首を廻らすと、良い笑顔のケンスケさんに羽交い絞めにされた亮介が見えた。隣に座ってる信一もニヤニヤ笑ってて……。
「智サンを悲しませたら遠慮なく奪いにいきますからね、亮介さん。覚悟しといてくださいよ」
ますます強くオレを抱きしめたタケルが亮介に向かってそう宣言していた。オレって愛されてる? いやいやそうじゃなくて……。この場合オレはどうしたら良いんだ? もちろん亮介のところへ行きたいけど、何かタケル、オレを離そうとしないんだよね。無理矢理暴れるワケにもいかず、お願いしようと口を開きかけたとき、スパーンと言う素晴らしい音とともにオレへの拘束が弱まった。
「いつまで未練がましくしてんのさ。ほれ離れろ」
「いいじゃないですかコウさん。最後なんだからたっぷり堪能したいんです」
「鬱陶しいぞ。それに今日はオレがパートナーだろうが」
「今日のパートナーはコウさんですが、でもやっぱり智サンが一番なんです」
「嗚呼もうコイツは……。ほれ智、早く亮介のところへ行ってやれ。おっきいワンコが尻尾垂れてるぞ」
いきなり始まったコウとタケルのやり取りに呆気にとられてしまったし。コウに言われて慌てて亮介の方を見ると、「智ぉ……」とか言いながら情けない顔をした大型犬がそこにいた。……うん、コウの言い方は正しいな。クスっと笑ってからオレは亮介の方へ歩いていった。仕方ない、今日は特別サービスで亮介の喜ぶ場所へ座ってあげよう。
「うわぁ……、おまえら付き合いが復活したと思ったらそれかよ」
「アハハ……」
呆れた呟きは信一だ。まあね、オレもそう思うよ。でも亮介の機嫌が直るのはこれが一番なんだよね。そう、オレが今座ってるのは亮介の腕の中。亮介はオレを背中から抱きしめて、顎がオレの肩に乗ってる状態だ。背中から亮介の満足そうな雰囲気が伝わる。少しくすぐったくて、そしてとても嬉しい。
「あ~あ、今日の主役はオレたちなんだけどなぁ」
「はいはいスネないの。スネるとケンスケもワンコになっちゃうよぉ」
「それはカンベンだな」
きっと亮介は自分がワンコって言われてるのには気がついてないんだろうな。それがおかしくてクスクス笑ってしまった。目が合ったカイトさんはとても楽しそうだった。
「それじゃぁそろそろ始めるよぉ。コウちゃんもタケルもいい加減ケンカ止めてこっち来てさぁ。今日の主役はオレとケンスケだよぉ、でもって智ちゃんと亮介くんがサブ主役だからねぇ」
今までずっと言い争いをしていたコウとタケルが慌ててこっちへ向かってきた。ふたりともちょっと照れたような顔をしている。ケンスケさんとカイトさんはニコニコ顔、信一は呆れたような表情、そして亮介とオレは……とても楽しそうな顔だと思う。
「じゃあ、とりあえず乾杯するよぉ」
乾杯の後、楽しい宴が始まった。
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