56 / 61

56.ReSTART・亮介

 再び智と付き合って、智の仲間たちと会って気がついたことがある。智の仲間は全員ゲイだったってことだ。信一は今女性と付き合っているけど、あいつはあいつでバイだ。世の中には智やオレのように同性を好きになるヤツはそれなりにいるだろうとは思ってたんだけど、まさかこうやって集まった全員がそうだってのにオレとしては驚いてしまった。  人は居心地の良い場所を捜し求めるってことだろうか。世間一般から言わせると異性同士の恋愛は当たり前のことで、同性同士のそれは『背徳者』『間違っている』『気持ち悪い』等で評されるものだそうだ。そんな中で同士を求めるのは自然なのかもしれない。  確かに、『同士』の中であれば何ひとつ隠す必要は無く自然体でいられる。そしてそれはとても居心地の良いものだと思った。  それからもうひとつ、タケルは智のことを友情以上の意味で好きだってのを今日知った。以前会ったときの言動から慕ってるのは知ってたが、まさかそれ以上だったとは……。 「智サンを悲しませたら遠慮なく奪いにいきますからね、亮介さん。覚悟しといてくださいよ」  そのセリフを言ったときの彼の目は本気だった。そしてそのことをオレ以外の全員が知っていたってのには驚いた。ヤツがそのセリフを言ったとき智は……そいつと抱き合っていた。 「智ぉ……」  智の気持ちを疑ってはいないが、情けない声が出るのは仕方ないと思うんだ。ホントは今すぐ飛び出して行って智を奪い返したいんだが、何故かケンスケさんは良い笑顔でオレを羽交い絞めにしている。隣に座っている信一もニヤニヤしたままだ。どうやらここにはオレの味方は誰もいないらしい……。  幸いなことに悲しい時間はコウの手によって唐突に終わった。コウの手にはスリッパ……。あんなに素晴らしい音が出るってことは、どれくらいの勢いで叩いたのやら。まあ、オレ的には良くやった!ってカンジだな。  タケルから離れた智は真っ直ぐオレの腕の中に帰ってきてくれた。もうそれだけで満足で、ついさっきまであった複雑な気持ちはキレイさっぱり消し飛んだ。智を抱きしめて安堵してる周りでは犬とかワンコとかって単語が飛び交っていたが、何の話だったんだろうか? 少しだけ気になったが、まあ今は智を堪能したいから気にしないでおこう。  自分でもわかってるさ。オレは智がいてくれさえすればそれで良いんだから。 「楽しかったな」  ケンスケさんたちの家からの帰り道、満足そうな顔で智が呟いた。最近智はよく笑う。それを見た皆が驚いていたのが印象的だった。  帰宅したオレは久しぶりに姉貴にデンワをかけた。オレはオレで解決すべき問題があるからな。そろそろ向き合おうと思ったんだ。 「亮介!」 「久しぶり。義兄さんやチビすけたちは元気か?」 「元気かじゃないわよ! 正月も全然帰ってこないでどうしてたのよぉ?」 「悪ぃ。いろいろあって落ち着いたのは最近なんだ」 「そうなの? 元気でやってんの?」 「嗚呼。今は智と一緒に暮らし始めたところだ」  それからオレは姉貴に現状を報告した。と言っても、智と暮らし始めたって以外ほとんど報告することは無いんだけどな。姉貴から聞いたところによると、両親はとてもオレのことを心配していたそうだ。今でもときどきスマホに留守電が入ってるが、聞かずに消去してたので向こうの様子は何ひとつ知らなかったりするんだけど。 「近々実家に帰るよ。こっちも落ち着いたから、そろそろあいつらとちゃんと話さないといけないからさ」 「そうだねぇ……。亮介が報告に帰ったら実家に嵐が吹き荒れるだね」 「嵐? ブリザードって表現の方が合ってると思うよ」 「うわぁ……」  スマホから聞こえる姉貴の声はめちゃめちゃ嫌そうだった。実家に行く日は前もって知らせるつもりだから大丈夫だろう。さすがの姉貴も、自分から嵐の吹き荒れる実家に帰るようなヘマはしないだろうし。 「ところでさ、私も智くんに会いたいんだけど……」 「智に? うーんそうだな……。とりあえず智に聞いてみるよ」 「お願ーい。期待して待ってるよ~」  そう言ってデンワが切れた。ふと時計を見る。どうやらオレは1時間近く話し込んでいたみたいだった。 「智、姉貴が会いたいって言ってるんだけどどうする?」  リビングでテレビを見ながら寛いでいた智に声かけた。 「美鈴さん? オレが会っても良いの?」 「もちろんだ」  それから再度姉貴に連絡したりして日程を調整した。親への連絡は姉貴にやってもらった。そして当日は何故か義兄さんも同席することになったんだ。まあ向こうもオレ以外の人間がいた方が冷静になれるか。きっとそれはオレも同じなんだろう。ってことで義兄さんの心遣いに感謝だ。  ついでって言い方はおかしいんだけど、オレが実家へ帰る日に智は姉貴と会うことになった。最初智とふたりで義兄さん一家に会って、それからオレが義兄さんと一緒に実家へ行くって段取りだ。姉貴は智のことを気に入ってるからまあ、ふたりでいても気詰まりにはならないだろうし、チビたちがいるから一緒に子守をしてくれるんじゃないかと思ってる。智はチビたちに会うのをとても楽しみにしているようだった。  実を言うと気が重い。でもここでちゃんとしないといけないってのは分かってる。もう二度と智と離れないためには必要なことなんだ。ちゃんと向き合おう。そう思った。

ともだちにシェアしよう!