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59.ReSTART・智⑧ (最終話)
4月29日、この日兄貴と優子さんは結婚した。白無垢姿の優子さんはとても綺麗だった。披露宴のドレス姿も清楚で、隣に並んだ兄貴はかなり鼻の下が伸びてたように見えた。オレは家族と一緒に結婚式も披露宴も出席してて、1年前から考えたら夢みたいだと思った。
父とはそんなに話しはしなかったけど「亮介くんは元気か?」と聞いてくれた。「すっごく元気だよ」って答えたときの父の顔は普段より柔らかかったような気がしたけど、おめでたい席だったからなのかもしれない。
「これを智くんに、私からのプレゼントです。新婚旅行から帰ってきたらお土産持って遊びに行きますから、亮介くんと仲良く、ヨロシク伝えてくださいね」
「――ッ! あ、ありがとう、義姉さん……」
披露宴が終わった後、オレは義姉さんから花嫁のブーケを貰ったんだ。兄貴と結婚したから、これからは優子さんを義姉さんと呼ぶつもり。ブーケは……、義姉さんからのエールだと思う。ありがとう義姉さん、オレたちも幸せになるよ。
披露宴の引き出物とブーケを持って帰宅したオレに亮介は驚いていた。まあね、男がブーケを持って帰ったら普通驚くよな。でも直接義姉さんから貰ったって言ったら亮介もすっごく喜んでくれた。
「そうだ智、ちょっと待っててくれるか?」
そう言って亮介は寝室に行って戻ってきた。手にはなんか小さなモノを持ってるみたいだった。
「これ……、受け取ってくれないか?」
「これ、は……っ!」
亮介がオレに渡してきたのは小さなケース。フタを開くと……中にはシンプルな指輪がふたつ。
「ホントは智が入社した日に渡そうと準備していたモノなんだ。あれからもう何年も経ったけど、是非智に貰って欲しい。これから先の人生ずっとオレと一緒に歩んで欲しいんだ」
「亮介……」
自然と涙が出て、目の前の亮介の顔が徐々に滲んできてしまった。亮介は優しくオレの涙を拭ってくれた。
「うん、いる。オレ一生亮介と一緒にいる」
胸がいっぱいになって亮介に抱きついて、そしてキスをした。
それから指輪の交換をした。大学のときに亮介がこの指輪を用意してたってのは実は今まで知らなかったんだ。驚いたよ、オレたちが別れて会えなかったときもずっとこれだけは捨てずに持ってたってのにはかなり驚いた。でもそれだけオレのことを想ってくれてたってことなんだ、だから素直に嬉しい。オレは左手の薬指に嵌った指輪を眺めて、しばらくの間感慨にふけっていた。
「そうだ、記念に写真を撮ろう!」
突然亮介がそう言って、そっから先はドタバタだった。「記念写真だからなぁ、やっぱスーツだよな」って呟いていきなりスーツに着替えたんだけど、それは上だけで下はスウェットのままだから傍から見るとかなりマヌケな姿だった。「智も礼服じゃなくスーツにしろよ」って上着とネクタイを剥かれて普通のスーツに着替えさせられたし。
写真は亮介のスマホで撮ったんだけど、オレと亮介とお互いの左手、それに義姉さんから貰ったブーケを入れる構図にちょっと苦労して何回も撮り直したんだ。1枚撮ってはチェックして、「これはイマイチだ」とか「ちょっと光が足りない」とか「オレの顔がヘンだ」とかブツブツ言ってて、最後の方は爆笑しながら写真を撮ってたと想う。
それでもまあ最終的には亮介的に満足できる1枚が撮れたみたいで、後日それはフレームに入れられてリビングに飾られた。亮介の満足の1枚は、思いっきりオレが笑ってる写真だった。「やっぱ智は笑ってる顔が一番だ」って、亮介は写真を手にする度に満足そうに呟いてた。
「んっ、あぁ……っ、はぁ、ぁぁぁ……」
背中に覆いかぶさった亮介が後ろからオレを貫く。既に1度達したおかげで抽挿もスムーズだ。亮介の舌がオレの耳朶から首筋、背中へと移動していく。ときどきチクッとした刺激に背中が戦慄き、その度に亮介を締め付けてしまう。
亮介の左手がオレの左手に重なった。そこに見えるキラリと光るもの……。思わずオレは掌を返し亮介の手を口元に持ってきた。軽い、触れるだけのキスを薬指に……。
「――ッ! あ、あっ、ああぁぁぁ」
いきなり体位が変わって激しく突き上げられた。オレ自身の体重もあって深く繋がり、その刺激でイきそうになる。オレが亮介の手を握ってたハズなのに気がつけば亮介がオレの手を握ってた。そのまま背中の方へ持っていかれ、薬指にキスされた。
「明日腰がダルいって文句言うなよ。智が煽ったんだから」
「えっ? やっ、んあっ、あ、んんっ、あ、あああ」
煽ってないって言いたかったのに、オレの口から出るのは喘ぎ声だけ。亮介に揺さぶられながら浮かんだのは、明日会社を休む言い訳……。
「これからはもっともっと幸せになろうな」
眠りにつくとき、オレを抱きしめた亮介がそう言った。
「ジジイになったらさ、ふたりで老人ホームに入ろうぜ。もちろんダブルベッドを用意してもらってさ」
「お互い、ジジイになってもがっついてるかもなぁ」
オレの言葉にいたずらっ子のような目をした亮介がそう答えた。本当にそうなったらすごいよね。と言うか、将来そうなるべく体力筋力UPに励もうと心の中でだけ決心した。
「愛してるよ、亮介」
亮介に擦り寄って目を閉じた。きっと今夜の夢は老人ホームでいちゃいちゃしてるオレたちの夢だろう。もちろんダブルベッドの上でな。
亮介もオレを抱きしめてそして目を閉じたようだった。絶対亮介も老人ホームの夢を見ると思うよ。
これから先こんな夜がずーっと続くんだ。そう思うと胸の内が暖かくなる。きっと幸せってこんな小さい嬉しさの積み重ねなんだろうね。そんなのが沢山集まって、気がついたら大きな幸せになってるんだ。オレたちがそれを実感するのは何年後だろう? 何年後だっていいか、ずっと一緒にいるんだから。
お休み亮介、そして明日からまたよろしく。
ジジイになって、死ぬまでずっと……。
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