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第6話
「ああもう、どうしよう」俺はシャワーヘッドを元に戻した。お湯は出しっぱなしのままで、それを浴びながら碓氷さんを抱き締める。「本当に、すごく可愛い。なんなんですか、あんた」
「先輩に向かってなんだ、その……」責めるべきは可愛い呼ばわりなのか、あんた呼ばわりなのか、混乱しているようだ。
「ここでしちゃってもいいけど……風邪ひくといけないから」俺はやっとシャワーを止める。
そこからの碓氷さんはすっかりおとなしくなってしまい、無言のままタオルを渡してきたかと思うと、やはり無言のまま自分の身体も拭き、それが終わるとスタスタと寝室に向かった。
「碓氷さん」
「……なんだ」いささか怒っているような口調は、どうしていいか分からないせいだろう。
「ローション的なもの、あります? やっぱ、ないと辛いと思うんで」
「……」碓氷さんはクローゼットの引き出しをガサゴソと物色しはじめた。しばらくして、俺も見覚えのあるパッケージの、メジャーどころのローションのボトルが出てきた。使いかけらしい。「こういうのって、使用期限あるのかな」
「いつから使ってないんですか」
「聞くなよ」イコールこの部屋でセックスしていない歴……という意味に聞こえるであろう、不躾な質問に、碓氷さんが苦笑いをする。たとえ満面の笑みではなくても、笑顔には違いない。無言よりはずっと嬉しい。
俺はベッドに乗り、俺の隣のスペースをポンポンと叩いて碓氷さんを招く。彼はたかが数歩の距離のベッドまで、やたらと時間をかけてやってきた。だが、最後にはもう後には引けないと覚悟したのか、エイヤとばかりに俺の隣に座る。俺はすかさずその背後に回り、後ろから彼をハグした。
碓氷さんが顔だけ振り向かせる。それから手を伸ばして、俺の顎に沿わせた。その手に導かれるようにキスをする。彼からのキスは初めてだ。
「キス、好きなんですか?」
「え? ……好きと言うか」碓氷さんが真っ赤になる。そんなことを言われるとは思ってもいなかったようだ。「するだろ、こういう場合」
「……はい」俺は顔がニヤついてしまってどうしようもない。なんだろう、この人。なんでこんなに可愛いんだ?
「おまえはしないのか?」何かおかしなことでもしでかしたのかと、焦った風に聞いてくる。
「します。全力でします」俺は碓氷さんにもう一度キスをして、そのままの勢いで押し倒した。
例のOBとは、キスよりセックスの回数のほうが多かった。見つめ合って、微笑み合って、愛しそうにキスし合う。そんな「恋人」みたいなことはしなかった。だってそこに、恋愛感情はなかったから。性器と性器を密着させて、快感を得て、射精して。それだけが目的だったから。
俺は碓氷さんの両脚を開かせる。ローションをたっぷりと使い、碓氷さんのそこの周辺をマッサージするようにさする。「昔の彼女に使った残りを自分が使うなんて、思ってなかったでしょ?」つい、そんなことを言ってしまう。碓氷さんの身体がビクッと強張った。「なんて、すみません、生意気言って」
「まったくだ」碓氷さんは強がるが、いつもよりも張りのない声だ。
「もう少し、横になったほうが楽かな」俺は碓氷さんを横向きに寝かせる。その背に平行になるように俺も横向きになった。俺もこのほうが「そこ」への挿入はしやすい。
「あっ」
まだいくらも深くないところ。でも、他とは異なるコリッとした感触のそこに指が触れると、碓氷さんは声を上げた。そして、慌てて自分の手で自分の口を塞いだ。
「声、出していいですよ?」
「壁薄いんだよ」
「そうなんですか? なんでそう思うの?」
「……隣からたまに声がする」
「それは迷惑ですね」
「ああ」
「じゃあ、やり返しましょうよ」俺は碓氷さんの前のほうも握ってみた。さすがに勃ってはいなかったけれど、少し扱いただけですぐに硬くなる。後孔の指はまだ抜いていない。悪い反応じゃないのを確かめて、前と後ろ、両方をゆっくりと刺激した。
「あっ、ちょっ、待て、前は」
「嫌なんですか?」
「ちが、その、両方は……」
「すぐにイキそうだから?」
俺には背中を見せている体勢の碓氷さんだが、首の後ろのほうまで真っ赤になっているから、どんな表情なのかは想像に容易い。
俺はさっきの碓氷さんのポイントを、もう一度攻めた。
「あ、やだっ、そこっ……」
明らかに他とは違う反応に、俺も俄然やる気になる。前を扱く手も、孔を抉る指も、少しずつ力を強めていく。
「ああっ」殊更に激しく喘いだ瞬間、碓氷さんは後ろ手に俺の首をかきいだいて、キスをせがんできた。俺はペニスの手だけ外して、彼の肩を抱き、キスをした。
「ここ、気持ちいいですか?」前立腺への刺激を止めずに俺が問うと、紅潮した顔のまま、彼が頷いた。「こっちにだけ集中して」俺は肩に置いた手もどけて、ひたすらアナルだけを攻めた。最初は逃げていたはずの腰が、いつの間にか、逆に俺の身体にこすりつけてくるように蠢いている。
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