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第7話
男との経験はない、と言っていた割には随分とスムースだ。スムース過ぎるほどだ。商談だってスムース過ぎる時には大抵裏がある。……が、今はそんなことを考えている場合ではない。
「んっ」乳首をつまめば、のけぞる肢体。もう股間には触れずとも後孔で充分に勃起して、先走りがくちゅくちゅと卑猥な音を立てている。碓氷さんも俺もすっかり準備万端だ。
「そろそろ……いいですか?」断られたところで止まりようがない段になって、俺は聞いた。
「ん……いいよ」
少しは楽だろうと思い、バックの体勢を取らせようとした矢先に、碓氷さん自ら四つん這いになった。「これで……いい、か?」はあはあと乱れた息を吐きながら、碓氷さんが言う。
「マジで」思わずそんな雑なセリフが口をついた。
「え……? ダメだった?」碓氷さんはとろんとした目つきで、困り顔になる。その様がまた、なんというか。あざとく誘っているつもりじゃなさそうなのが、手に負えない小悪魔ぶりだ。
「いえ、ダメじゃないです。全然大丈夫です」俺は彼の腰を抱き、先端を押し当てる。「挿れますよ」
「あっ」挿れた途端に、背中がしなやかに反る。その先は枕に顔を押し付けるようにして、声が漏れないようにしている。
「声出したほうが……楽ですよ」そう、それは俺の経験上からのアドバイスだ。だが、碓氷さんは頑として枕にしがみついている。「う」のような「ん」のような、断続的なくぐもった声だけが辛うじて聞こえる。
今更だが、あの興味本位のセックスが、俺の性体験のすべてだ。そして、初体験から別れる間際まで、俺はずっと挿入される側だった。つまり俺は今、ようやく晴れて脱・童貞というわけだ。
俺の「初めて」は、こんな風にいきなり喘ぎ声を上げられるようなもんじゃなかった。痛い痛いと泣き喚く俺に、あのOBは我慢しろと言うだけで何の手加減もしてくれなかった。それでもその後も呼び出されれば会いに行ったのは、「じきに良くなる」という彼の言葉を信じていたからだし、そして、実際そうだったのだ。また、痛いことは痛かったが、その中に多少の快感を見出していたのも事実だ。何度も身体を重ねるうちに痛みも薄れ、快感ばかりになった時には淋しさすら感じたものだ。
碓氷さんにあんな風に痛い思いをさせたくはなかった。でも、もし、碓氷さんもそういった……要は「マゾ傾向」があるのなら、多少の無理は悪くないのかもしれない。ましてやこんな、最初から積極的に腰を振るぐらいの「適性」があるんだし。
「萩野」それは呼びかけられたものなのか、喘ぎの一種なのか、咄嗟に判断できなかった。「萩野、顔、見せて」そう言われてやっと、話しかけられているのだと知る。
「一度抜きますね」そう言って体位を変える。相手の顔なら俺だって見たい。きっと俺のほうが見たがっている。碓氷さんの、イクところ。
正常位になると、碓氷さんは「ふふ」と笑った。
「なんですか」この状況で笑われるのはなかなかのショックだ。何せこちらはリアルタイムに「童貞卒業中」の身。テクニックの未熟さを笑われるのは覚悟しているとは言え、ダメ出しなどされたら二度と立ち直れないかもしれない。
「必死な顔だな」
「……そりゃそうですよ。必死ですから」
「かっこいいよ」碓氷さんの腕が俺に伸びてきて、絡みつく。「好きだよ、萩野」
「え……」
「え、ってひどいな」俺にぎゅっとしがみつくから表情は見えない。
「もしかして、こういうことは好きな奴とするもんだ、なんて」
「思ってる。悪いか?」
「童貞くさ」
「はあ?」碓氷さんは本気でムッとして、俺の両肩を押しやった。そんな彼を、今度は俺が力づくに近い形でぎゅうと抱き締めた。
「俺は童貞なんで、そう思ってます」
「え?」今度は碓氷さんが聞き返してきた。
「好きです」俺は碓氷さんにキスをする。「……童貞、もらってくれます?」
「……いいよ」
顔を見ながらするのは、予想以上に刺激的だった。俺が下だった時は、痛かったし恥ずかしかったから、ずっと目をつぶっていた。そもそも正常位もしたことがない。いつも背中を向けて、突かれるばかりだった。でも、向き合った碓氷さんは、蕩けた表情を浮かべながらも、俺をじっと見ている。
優しく微笑んでいるようにも見えるその顔を見ていると、抱いていると言うよりは、抱かれているみたいな気になる。
「ん、あ、いい……そこ、あ、あんっ、好き、はぎのっ……」
そこが好きなのか、俺を好きと言ってくれているのか分からないけれど、そんなのどちらでもいい。ただ喜んでもらいたい一心で、俺は碓氷さんの中を行き来する。
「いいですか……? 俺、もう」グイとねじこめば、きゅっと締まる。もう、限界だ。俺は碓氷さんに懇願するように言った。男同士は初めてだと言う彼をリードするつもりだったのに、そんな余裕はどこにもない。
「うん、来な」
やっぱり碓氷さんには敵わない。こんな場面で、俺を受け容れてくれる人。最高にカッコいい。いくら俺に突っ込まれてよがり声を上げていても、結局主導権は向こうだ。
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