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第3話

「智大、どうしてこんな…… 俺が付いてればこんなことにはならなかったんだ。本当にごめん、ごめん……智大。」 涙を目に溜め話す男のことを僕は知らない。 なのに何故かトモヒロと音を紡ぐ彼に、胸が少しキュッと締め付けられる。 「あ、あの……どうして、」 彼はどうしてここに来たのだろう。どうしてそんなに泣きそうなのだろう。どうして僕のことを知っているのだろう。 聞きたいことは沢山あるのに、言葉が出てこない。 「あぁ、ヒカルに聞いたんだ。アイツここの病院だろ? それで急いで仕事をどうにかして飛行機に乗って、ここに来た。 智大が事故に遭ってたことも知らなかったし、一ヶ月も目を覚まさなかったなんて……」 僕はほとんど彼が何を言っているのか分からなかった。 話しながらどんどん近づいてくる彼から逃れたくともベッドの上だと逃げ場がなく、大きな手に頰を撫でられた。 「良かった、無事で。本当に良かった。」 よく見ると彼の右にはキャリーケースがあり、海外から来たということは分かった。 愛おしそうに僕の頰を撫で続ける男。 彼は誰なのだろう?僕の兄か何かなのだろうか。 「おい、ハルカ。先に俺のとこ来いってあれだけ言ったろ。」 ドアの方から声が聞こえる。 僕の前に立ちはだかる男が大きく姿は見えないが、聞いたことのある声だった。 「あっ、ヒカル、智大の無事を早く確認したくて……」 バッと男がどき、声の主が見えた。そうだ、彼は僕の担当医だ。 「でも何でヒカルが?」 「俺がこいつの担当医だからだけど?」 「え?どういうこと?だってヒカルは精神科じゃ……」 早いペースで流れていく会話。男は状況を飲み込めていない。 「この智大はお前の知ってる智大じゃない。」 担当医が言う。 「は……?智大は智大だろ?」 「正確には、お前のことを知ってる智大はいない。智大は事故で記憶を無くしてる。」

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