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☆リアと愉快な家族たち ◇双子編
大陸史:1411年 リア・8歳
リアが初めてマルシエで声を発してから半年が過ぎていた。
しかし生まれてからこれまでの約8年間、殆ど使われてこなかった舌は、固まってうまく動かせず、その発音は本当に拙い。
家族達の名前1つ発音するのも難しいらしく、やっと言えたそれぞれの名前は、
キリエ兄⇒「きぃ、え、にー」
クロス兄⇒「くぅ、しゅ、にー」
メイテ姉⇒「めーて、ねー」
ライナー⇒「あい、なー」
クレア⇒「くぅあ」
カルト⇒「かーと」
シェラサード⇒「しぇ、ら」
だった。
自分の事も、「リ」が上手く発音できずに「イア」となっている。
しかし一生懸命に声を出し、頑張って正しい言葉を話そうとするリアは本当に健気で可愛らしく、それまで最年少の特権とばかりに我儘三昧だったバルエ姉弟に、劇的な変化をもたらした。
リアがここへやってきて来てから1年位は子供部屋には入らず、ペガサスと2人で1つの部屋を使っていたのだが、初めて声を聞かせてくれた翌日から、試験的に子供部屋に入れてみたのだ。
バルエ姉弟は6歳。
部屋にはあちこちおもちゃ類が散らばり、服は脱ぎ捨てられ、毎日メイテからお小言を受けていたのが嘘の様に、リアが入ってからというもの、部屋は綺麗に片付き、服もきちんとランドリーボックスに入れられ、それをリアにも教えてやっていた。
たまにリアが片付け出来ないままに眠ってしまった時等は、代わりにやってやる面倒見ぶりである。
更には、相手が双子の片割れであっても絶対に貸さない程大切にしていたおもちゃですら、リアには平気で貸してやり、まるで弟か妹を相手するように、年上ぶって接している。
この変化には家族全員が驚いたが、毎日のようにリアを構い倒す双子達を、微笑ましい気持ちで見守っていた。
…ただ、高すぎる双子のテンションについて行けず、きょとんとしていたり、固まったりしているリアも毎日の様に見かけられたのだが。
そんな時は双子以上にリアの兄貴分を気取っているライナーが助けに入っていた。
そんなある日の夜。
子供部屋では寝る前の恒例となったペガサスの“お話し”を聞き終った時の事。
お話に出て来た“お墓参り”という初めて聞いた言葉に、リアがその意味を尋ねた。
「……おはぁか、まーり?…なぁ、に?」
拙い言葉で首を傾けながら聞くリアは、幼いバルエ姉弟ですら悶絶させるほどの愛らしさで、ライナー等は意味も無くベッドマットをバンバン叩いて、何かの衝動を抑えている様だ。
そんなライナーの事は見なかった事にして、クレアは今思い付いた事をリアに提案した。
「“お墓参り”は、大切な人が眠る場所に行って祈りを捧げることよ、リア。…ねえ、良かったら明日、私達のお父さんやお母さんのお墓へ一緒にお参りに行きましょ。」
「それいい!そしたらリアの事、お父さんたちに紹介するし!」
片割れの言葉に即賛成するカルト。
しかしリアには双子達が話した言葉の意味が全くわかっていなかった。
聞いた言葉をそのまま素直に受け止め、“どこかで寝ている人を起こして、リアに会わせてくれる”と思っていたのである。
そして翌日。
マルシエの高台へある共同墓地へ家族全員で行く事になった。
途中、地精霊達に綺麗な花を分けてもらい、クレアたちと一緒に花輪を6つ作ったリアは、
クロスに抱っこされながら、始めて足を踏み入れる場所をキョロキョロと見渡している。
「…さあ、着いた。」
キリエが言うと、クロスがそっとリアを降ろしたが、目の前に沢山並んだ “石” を前に、リアは困惑している。
「リア、ここに私達の両親やこの国の王だった人が眠っているんだよ。」
キリエが優しく説明するが、リアの混乱は深まるばかりだ。
「……ど、こ…?……いあ(リア)、…みえ、ない。」
「この土の下で眠っているのよ。…リア、さっき作った花輪を石碑の前に置いてあげて?」
今度はしゃがみ込んでリアと視線を合わせたメイテが、リアの持っている花輪を指して言った。
すると双子達が両サイドから出てきて自分達の両親が眠る墓石の前に連れて行く。
そうして見本を見せる様に、花輪を手向けた。
「お父さん、お母さん、私達の新しい家族を紹介するわね。」
「この子がリアだよ。僕達リアが大好きなんだ。」
そう言って “石” に語り掛ける2人を、リアは本当に不思議そうに見ている。
そうやって同じように家族全員の墓前でリアは紹介されたが、(ライナーとクロスの両親は不明の為、あるのは本当に墓石だけだが)姿が見える訳でも返事がある訳でもない不思議なやりとりに、リアは落ち着かない様子で、きょろきょろとしていた。
もちろんペガサス含め大人たちは、リアのその状態を正しく理解していたが、こういう事は徐々にわかって行けば良いと考えていたため、優しく頭を撫でてやるに留めていた。
その後、何度か墓参りを繰り返すうち、リアも何となく理解したらしく、リア達が花輪を持って行く以外は、いつも花も緑もない荒れた墓地に、
「……ここ、いるひと、…かわい、そう……。」
そう言うと、リアは荒れた大地に小さな両手をついて祈る様に目を閉じた。
するとリアのまわりにどんどんユグが集まり、血で穢れた大地を見る見る内に浄化してゆく。
そうして。
今では荒れ果てた土地は一面の花畑になり、地精霊も生まれた。
リア達が来ると歓迎するように優しい風が吹く。
地下で眠るマルシエの者達も、この美しい場所で安らかな眠りを得た事をきっと喜んでいるに違いない。
☆リアと愉快な家族たち ◇双子編 END
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