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第3話
────ガターン
静かな館に突然大きな音が響き渡り、マシューは跳ねるようにして飛び起きた。
「今のは……?」
しかし、考えている暇などない。
今、館にいる使用人は、マシュー以外は、当主であるレスター・ティカアニ付きの執事しかいない。執事長でもあるマシューの父親だ。
レスターの寝室は、イアンの寝室があるこの東館から棟続きの本館にある。
彼は、主人の寝室の側から離れることはない。
他の者は、敷地内の離れた場所にある使用人専用の住まいで、寝泊まりをしている。
ルナティックの夜、何かが起こった時に動けるのは、今は自分しかいないのだ。
マシューは、寝着を脱ぎ捨て、パリッと糊のきいた真っ白いシャツに袖を通す。
予め用意してあった執事服だ。
まるでマジックのような速さで着替え終え、ドアの近くにある小さな鏡を覗き込む。
「良かった。あまり乱れてなくて……」
独り言ちながら額に落ちた赤味がかったブラウンの髪をかき上げ手早く整えて、服に乱れがないかチェックする。
『急いでいる時こそ、身なりに気を遣え』
父親に教え込まれた、執事としての当然を律儀に守る。
微妙に歪んだタイを指先で整えると、マシューはドアを開け廊下へと飛び出した。
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────いったい何があったのだろう。
足早に、二階への階段を上る。
二階の奥まった場所には、イアンの寝室がある。
大きな物音が聞こえてきたのは、多分こちらの方からだと思うが、この館は天井が高く、吹き抜けのせいで音が分散されて響く為、確信は持てない。
確信は無いが、イアンの寝室へと向かう。
最初は小さかった胸騒ぎが、何故か段々と大きく胸の奥で広がっていく。
マシューにとっては、自分の仕える主人を守る事が、一番の優先事項だった。
階段を上りきったところで、向こうから廊下を走ってくる人影を見つけた。
その方角には、イアンの寝室はない。しかし、駆けてくる二人の姿に、マシューは自分の感じた悪い予感が当たってしまった事を知る。
「アーロン様!」
マシューは、片方の一人に声を掛けた。
アーロン・ティカアニは、イアンの腹違いの弟だ。
そして、一緒にいるのは、今夜イアンと番になる予定だったΩ性の青年、アンジュだ。
彼は、ティカアニ家が経営している店のひとつ、Ω性の男ばかりを集めたクラブ、Liberty bellで働いているところを、イアンが見初めてここに連れてきた。
白い獣毛の血統を受け継ぐ子供を孕ませる。その為だけに。
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