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第4話

「いったい何事です? さっき大きな音がしましたが……」   マシューの言葉に、18歳のアーロンは悪戯を見つけられた子供のように、苦笑した。 「悪い、僕がドアを蹴破ったんだ」 「な……? え? どこの……」  マシューは、思わず驚いた声をあげた。  普段は控えめな性格で、頭が良く、いつも次期当主である兄イアンの支えになるように努力を怠らないアーロンが、ドアを蹴破る姿など想像もつかない。  ましてや、その手が握りしめているのは、今夜イアンと番になるはずだった青年(アンジュ)の白く華奢な手だ。 「アンジュの部屋のドアだよ。ごめんね……兄さんのことお願いします」  戸惑うマシューを後目に、アーロンはΩの青年の手をしっかりと繋ぎ直し、階段を下りていく。 「アーロン様、どこへ行かれるのです! 今夜、外に出ては……」  アーロンが地下に向かっている事に気づき、マシューも慌てて階段を下りかけた。  地下には、駐車場がある。彼は車を使って外に出るつもりなのだ。 「来ないでマシュー!」  しかし、アーロンのひと声で、条件反射のようにマシューの足が止まる。 「僕のことは大丈夫だから。それよりも兄さんのところへ、早く行ってあげて!」  そうだった。音の原因は判明した。何があったのかも、少し信じがたいが、たいだいは想像できる。  アーロンのことも気がかりだが、今はイアンのことが心配だ。  マシューは、二人の姿が見えなくなるのを待たずに踵を返し、アンジュが使っていた部屋へ向かった。  「イアン様!」  アンジュが使っていた部屋のドアは、鍵が壊れ、開け放たれていた。  未だに信じられないが、確かにアーロンが蹴破ったのだろう。  イアンは、窓際の床に座り込み、力なくうなだれていた。  「……大丈夫ですか? 寝室へ戻りましょう」  なんと声をかけたら良いのか分からなかった。  自分にできる事は、早くこの場を離れて、ご自分のベッドで休ませてさしあげる事。それくらいしか無いだろう。 「……マシュー、情けないだろう? 弟に奪われてしまったよ」  イアンは、その美しい顔を苦痛に歪め、無理やり苦笑いを浮かべている。  額には汗が滲み、苦しそうに荒い息を繰り返す。  白いスーツ越しに触れた背中は、燃えるような熱を帯びていた。 「イアン様……月の光を浴びたのですね?」

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