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第16話

 背後から覆いかぶさってくるイアンにきつく抱きしめられて、懐に閉じ込められて、荒々しい狼の息が項に吹きかかる。  マシューは、上半身をぺたりとシーツに伏せて、腰だけ高く上げた状態で、イアンの杭に固定されている。 「んぁ……ッん」  腹の奥の一番深い所で広がる熱に、マシューは小さく喘いだ。  最初は勢いよく迸り、徐々にじわじわと広がっていく。  それが、とても温かくて気持ちいい。  狼の射精は長い。αであるイアンは、マシューのそれよりも長く、ゆっくりと時間をかけて放出する。  亀頭球までしっかりと繋がり、中に出された種は零れずに、体内へ送り込まれる。そうして確実に雌を孕ませるのだ。  ──だけど俺は……。  不意に、マシューを縛るネクタイに、イアンがそっと手を伸ばした。 「……あ……解かないで……そのままで……」  マシューは、ネクタイを解こうとするその手を拒む。 「どうして? もう必要ないでしょ? これ」  それでもマシューは首を横に振る。 「私は今……貴方に犯されているのでしょう? 最後までそういう事にしておいて下さい」  マシューは、ふっと小さく笑い声を零し、「そうしなければ、言い訳ができないでしょう?」と言葉を続けた。  本当は、解けるのに解かなかった。拒否できるのに拒否しなかった。逃げることはできたのに、そうしなかった。  もう、ずっと前から、イアンとこうなりたいと、心の奥では願っていた。  そんな事は誰にも知られてはいけないのだ。  だから……。  ──俺の気持ちに気付いていても、知らないふりをしていてくれ。これからもずっと、死ぬまで口に出してはいけない。 「……マシュー」  イアンが、また腰を小刻みに揺らし、中を突いてくる。 「っ、あっ、んっ……ぅ」  射精しながら、蕩けた肉を擦り、奥の襞を硬い先端で捏ねまわす。  腹の中で、温かい精液が掻き混ぜられて、泡立つ音を響かせる。 「悪いが、朝までずっとこのままだ。付き合え」  低い声で命令される。  ──……As you wish.  いつものように、そう言いたいのに。 「……っ、は……っ、ぃっぁ、ん……ッ」  口から零れるのは、気持ちいいことを伝える声ばかり。  いったい今、何時だろう。  身体を揺さぶられながら、ふと頭に過る。  腕時計は、ネクタイの下に隠れて見る事ができない。  できることなら、このまま時間が止まればいい。この世界から時間がなくなればいい。  とくとくと、ずっと身体の奥に注がれていたら、もしかしたら孕むことができるかもしれない。  そんな、有り得ない事を願う。  どれだけ奥に浴びせ掛けられても、どんなに奥に注がれても……  ────β性の雄は孕めない。  ならば、永遠に朝などこなければいいのにと、本気で思う。  こうして抱き合っている間は、相手の事だけを考えていられる。  密着した身体は、まるでパズルのピースのようにぴったりと嵌まる。  ──このまま、境目がなくなるくらいに一つに溶け合えたなら、ずっとお前の傍にいられるのに。  

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